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tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!のyukacafeのレビュー・感想・評価

4.2
ジョナサン・ラーソンの存在を知ったのは、RENTの映画版が公開された3年後、2009年のこと。作品自体の素晴らしさはもちろん、公演初日前夜にこの世を去ったいう事実に、とてつもなく大きな衝撃を受けたのを今でも覚えている。

映画版はこれまで何度観たかわからないし、2009年、2016年の来日公演も観に行って、ジョナサンのこともある程度知っているつもりでいたのだが、RENTの前日譚とも言えるこの作品を初めて観て、なぜ彼の作品にこんなにも心動かされるのか、その理由がようやくわかった気がした。彼の生み出す言葉や音楽は、切実さと希望のバランスが絶妙で、人生が上手くいっていないと感じる時ほど、そっと寄り添ってくれるような優しさで溢れている。

過去の自分も確かに持っていた焦りを思い出させてくれる”30/90”、鳥籠か翼か、恐れか愛かを問いかける“Louder Than Words”、そして親友マイケルとの関係を歌った”Why”。どのナンバーも彼自身の実体験が色濃く反映されているからこそ、ストレートに心に響く。

ジョナサンにとってのソンドハイムのように、大事な人からもらった言葉を支えにして、その後の人生を生きられることがある、というのにも心から共感した。夢なんて見るもんじゃないという風潮が強い昨今だが、その後の彼に何が起こったかを知っているからこそ、思う存分夢を追いかけてほしいと応援したくなる。

その存在を知った時には既にこの世にいなかった世代としては、そこに生きているかのように再現してくれたアンドリュー・ガーフィールドの佇まいだけでもこみ上げるものがあった。監督や脚本家の思い入れが伝わる緻密な演出で、90年代ニューヨークの空気を体感できたのも嬉しかった。
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