EDDIE

ザ・ウェイバックのEDDIEのレビュー・感想・評価

ザ・ウェイバック(2020年製作の映画)
4.9
人生に堕ちた男が再起をかける。アルコール依存の描写が重々しい一方で、主人公のコーチと共にバスケチームの高校生たちも成長をしていく姿が涙腺を刺激。ベン・アフレック自身もアルコール依存症に悩まされたバックグラウンドが物語にリアリティを与える傑作ヒューマンドラマ。

とても良かった…。日本劇場未公開なのが勿体ないぐらいです。むしろ円盤が欲しいほど。これまで観てきたバスケ映画の中でも一番好きかもしれません。
何よりも主人公のジャック・カニンガムを演じたベン・アフレックの演技が素晴らしいです。彼自身も俳優として、脚本家として、監督としてハリウッドで成功を収めながらも、やや落ち目になり、しかもジャック同様にアルコール依存症に悩まされていたという共通点もあり、まるでベンアフの伝記映画を観ているかのようでした。

ジャックは高校の時、ハイスクールバスケのベストプレイヤーの1人で、大学からのオファーも殺到するぐらい偉大でした。
ただ彼自身がとある問題を抱えており、結果的に大学バスケの道には進まず、気付けば建築現場で変化のない日々を過ごしながら、お酒に溺れた自堕落な生活を強いられていたのです。
そこで母校からバスケ部のコーチをやってくれないかと打診がきて、悩みながらも承諾。かつて彼がスタープレイヤーだった頃とは打って変わり、10人しかいない弱小チームに成り下がっていました。
そこからジャックはバスケチームを育成しながらも、人生の再起を図るべく動き出したというあらすじですね。

まさに人生の転機にある私にとっても感情移入の容易な作品で、アルコール依存の恐ろしさに反抗しながらも、前を向こうと踏ん張るジャックの姿に感化されました。
ただ、そこはただの再起を図るだけの映画になっておらず、アルコールのなかなかやめられない恐ろしさを悍しいほどに見せられました。
演出が巧いと思わされたのが、とにかくアルコールを飲んで大暴れするとかそんな描写ではなく、ジャックの身の回りにあるビールの缶を映したり、車の中にお酒を入れた水筒を持ってきていたりと、見ただけでかなり重度のアルコール依存だとわからせる部分。
特に自宅でバスケ部コーチを引き受けようかどうか葛藤していくときの缶ビール飲むシーン。冷蔵庫にたくさん入った缶ビールを一缶冷凍庫に移動させて、冷凍庫に入っている一缶をプシュッと。飲み終わったら、また一缶冷凍庫に補充して、さっき冷やした缶をプシュッと。それを連続的に映し、気付けば冷蔵庫内の缶ビールなくなっちゃってるみたいな。
もうこの間ジャックはどれだけバスケ部のコーチを引き受けるかどうか独り言ぶつくさ言ってるんですけど、それだけで彼のアルコール依存のヤバさ加減が十二分にわかってしまうんですね。

バスケ部の連中も個性派揃いで、だけど問題児を揃えてるとかではなくて、個々にキャラの違いがあるんですね。
特に司令塔のブランドンがとても良かったです。司令塔のPGであるにも関わらず、あまり気の強いタイプではなく、声をほとんど発しない。そこを問題視したジャックは彼をあの手この手で指導して、チームリーダーとして育て上げていくんですね。
終盤のシーンでブランドンが成長した模様がわかる描写が入り、そこはかなり涙腺をやられてしまいました。

バスケの試合シーンをガッツリ映すというのではないですが、クライマックスの方で大事なところはしっかりと映してくれるし、本作の大事なところはジャックの再起を図るという物語です。
あくまでバスケコーチは手段なわけです。

ラストシーンが好きすぎます。あのシーンだけで微笑ましく、人間そう簡単に折れない、諦めたらそこで試合終了ですよという名台詞すら思い出すほどでした。

おそらく劇場公開されていたら、2020年のベスト10には入れていたかもしれません。それぐらい素晴らしく印象的な映画でした。
ギャヴィン・オコナー監督は、ベン・アフレックと『ザ・コンサルタント』でも組んだ人ですが、ベンアフを世界一魅力的に演出できる監督なのかもしれません。
本作のアメリカ公開が3月で、コロナの影響もあり、評判は良かったのに興行収入は散々だったようです。だけども、彼に何かしらの栄誉を与えてほしい限りです。

※2020年自宅鑑賞280本目
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