安藤エヌ

バビロンの安藤エヌのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.0
デイミアン・チャゼルが映画にぶつける本音、と言ってしまえば可愛いほどの魂の咆哮。美しいものに用はない、真実を、光でなく闇を見ろ。目をそらすな。それを見届けた者だけが感じることのできる快感が、エンドロールを眺めている間中ずっと心を捉えて離さない。
歴代作品から変わらぬ作家性を象徴したラストでのカタルシスは本作でも健在。
音楽、そして映画への偏屈で狂っているとも揶揄されがちな愛が、映画というひとつの芸術をテーマに、"映画のための映画"として昇華され、何者をも黙らせる爆発するほどのエネルギーとなって眼前に迫ってくる。どうにもならない遣る瀬なさと夢追い人の顛末をその人生で感じたチャゼル監督だからこそ描ける究極の境地。これまで説得力があり、画で、実力で殴ってくる映画はそうそうない。栄枯盛衰、絢爛豪華な画面に負けず存在力を放ち、キャラクターの人間性を見事に帯び、観客に余韻を残すまでやってのけるブラッド・ピットとマーゴット・ロビーの両者にはしてやられた。

虚飾と虚栄に唾を吐き、中指を立てる。人生は最高だ。バビロンのような映画を観られる人生は、世界は、まだ捨てたものじゃない。
安藤エヌ

安藤エヌ