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バビロンのtq1chiのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
5.0
”より大きなものの一部になりたい”

映画史を映画をもって表現した作品。
狂気マシマシ。
序盤から酷い目に遭いながらも夢のために頑張るマニーと自分を生まれながらのスターだと信じ、自信満々に生きるネリー。
夢を追う二人が出会うシーンから始まりながらも、前半はかなりの乱痴気騒ぎ。
モザイク写りまくりだしすぐ脱ぐし…
なにかと激しめな序盤に対して後半はなかなか重く、サイレント映画の担い手たちがトーキーへの変化についていけずに滅びていく様を残酷なまでに描いている。話だけを聞いたらかなり胸糞の悪い話だが、チャゼル監督の手腕もあってそこまで観ていて苦しい映像にはなっていなかった。
表舞台で動く彼らは新しい時代、世代への変化に伴い、何かを失ったり、捨てたり、偽らなければならなかった。しかし誰もが変化に乗り切れる訳ではないのだ。スターになりたがっていたネリーは取り繕ったセレブ達とうまくやっていけなかった。逆にジャックはスターとして気を遣われるのに耐えられなかった。フェイは性的指向からくる悪印象から追い出され、シドニーは現在でもタブーとされるブラックフェイスに通ずる行為を余儀なくされた。マニーも最終的にはロスを追われるまでの事態になる。この状況は全員一人一人がこの時代の映画業界に合わなかったともとれる。じゃあ何故彼らはそこまで映画業界でもがいたのか。きっとそれは憧れてしまったからだろう。新しく、刺激的で、長く意味のあるものとして残っていく映画に。
そんな映画への監督の異常なまでの愛が詰まったフィナーレ。嫌いな人は大嫌いだろうが、自分にはこれでもかと刺さった。映像だけではない。バックで流れる「Finale」がこの演出を素晴らしいものにしている。
今作には多くのメタファーがあり、「穴」もそのひとつであるように感じた。
序盤と終盤の象とLAの”ケツの穴”、シドニーのトランペット…
穴というのは中心に空間、つまり空虚があって初めて成立する。
狂乱の時代を生きた彼らはその空虚に吸い込まれるようにして堕ちていく。
ブラッド・ピットの哀愁漂う演技が印象に残った。
マニーのキャラクター性にもとても惹かれる。どんちゃん騒ぎのパーティーで働き、外で小さなタバコで一服していたところからやがてより大きな目標のために名前や出生地といったアイデンティティを自ら変えていくようになる様はいかにも苦労人であり夢追い人だった。ディエゴ・カルバの今後に期待!
4回も劇場で観る程好きになってしまった。観る度に元気を貰える作品。
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