はらだしんじ

バビロンのはらだしんじのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.0
無声映画からトーキーへ移行していく、ハリウッド映画業界を舞台にデイミアンチャゼルがありったけの予算を貰い制作した意欲作。

冒頭30分の酒池肉林。
ものすごいものを観ているという興奮と、チャゼル監督は観客を何処に連れて行こうとしているのか、ただスクリーンに食らいつくしかない。

今作はお行儀よく上品なイメージのチャゼルイメージを覆すために抵抗の気持ちをこめた一作かもしれない。
しかし今作も映画愛は変わらず、映画館で見る醍醐味に溢れた作品となっている。
チャゼル監督作には「人のピュアな衝動の描写」が一貫してあると思う。
自分という個人を犠牲にしても成し遂げたい事がある。その大きな流れの一部として生きたいと願う人物の物語だ。

鑑賞中、時代背景とストーリーからジーン・ケリー主演作「雨に唄えば」を自然と思い浮かべる。
それは今作の登場人物のキャラクターが似ている事もあると思う。
ジーンケリーとブラッドピット、デビーレイノルズのマーゴットロビー。雨に唄えばではジーンケリー演じるコンラッドは、時代の変化に対応しスターに返り咲く。しかし、今作のブラピはそれとは反対の結末へと進んでしまう。
作品は違えど、観客の中ではキャラクターが同じ時間軸で生きている。
そして、終盤私たちと同じように年老いたマニーは劇場で「雨に唄えば」を見る…

正に時間を超えて、映画という大きなひとつの表現のひとつになった瞬間であり、鳥肌がたった最高のシーンだった。
あの時のマニーのように、雨の中を軽やかに踊るジーンケリーの姿を観て私自身何度救われただろうか。映画とは見る人と一緒に歳をとるものだと改めて感じた。そして、そういう人生の一部になるようなものを求めて映画を観に行くのだ。
ありがとうチャゼル!

バビロンHPの町山智浩さんの解説、町山智浩さんYouTubeのバビロン評もとても面白いので、理解を深めたい人にはお勧めです。