ワンコ

ブロークン・フラワーズのワンコのレビュー・感想・評価

ブロークン・フラワーズ(2005年製作の映画)
4.6
【ピース/大人へのアイロニー】

僕達の人生が、ジグソーパズルのようなものだとしたら、あちこちに絶対埋められないピースがあるに違いないと思う。

ピース自体がないのだ。

この「ブロークン・フラワーズ」は、気まずくも、可笑しくて、でも、やっぱり気まずく展開するストーリーのなかで、大人なんだけれども、大人になれない大人へのアイロニーを描いている。

しかし、エンディングは、やっぱりちょっと笑っちゃう。

ビル・マーレイは、このドン・ジョンストンみたいな役をやらせたらピカイチだと思うし、4人の元恋人役も、年齢を重ねたとはいえ、やっぱり美人だし、役になりきっていて素晴らしいと思う。

もし、昔の恋人から、今は一人で、実は密かに僕の子供を産み、育てて....と連絡があったら、僕は、どうするだろうか。

家庭のあるなし、裕福か否かを考えても、会いに行く勇気があるだろうか。

この作品には、この視点から、ずっと気まずさが付きまとう。

最初に、シェリーが出て行ってから、ずっとだ。

ウィンストンと、ローラくらいは登場人物として例外のように思うが、それを除くとやっぱり気まずい。

ドンの過去の女性遍歴は、詳細が語られることはないが、どう考えても、あまり褒められたものではないことが伺える。

でも、まあ、確かに、気まずいのだが、僕達は傍観者として、「まあ、しょうがないよね」と他人事として、女性だったら少し憤ったり、男性だったら、自分は大丈夫と高を括ったりしながら、眺めて笑っているのだ。

最期、もしや(父親の)自分に会いに来たのではないかというようなしぐさの若者に、チーズ入りの基本ベジタブルのサンドイッチをおごった時の会話が秀逸だ。

「旅する僕に、サンドイッチをおごって、あと何か哲学的な助言はある?」

「そうだな、過去は終わってしまった。未来といえば、これからどうにでもなる。だから、大事なのは、現在なんだ」

そうだよ!
ドン、それは自分自身に言わなくてはいけない言葉なんだよ!

他の若者にも息子か?と目を向けるドンが最後まで面白い。

そして、僕の最初の問い。

「もし、昔の恋人から、今は一人で、実は密かに僕の子供を産み、育てて....と連絡があったら」、僕はどうするだろうか。

これだという答えは見いだせない。

でも、それが人生なのだ。

大人だから、良い答えが導き出せるとは限らないのだ。

やっぱり、埋められないピースはある。

ないことを知らずに、探し続けるしかないのかもしれない。

皮肉だけど、それはそれで、面白いかもしれない。
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