EDDIE

ステップのEDDIEのレビュー・感想・評価

ステップ(2020年製作の映画)
5.0
父子家庭10年の“ステップ”。父として努力を重ねても日々の感情・境遇の変化に戸惑い苦しむ。良き理解者に囲まれても人間の心は複雑だ。父娘で成長する10年の軌跡に想いを馳せ必然的に感涙。役者全員が本物の家族のような自然の演技で物語に没入させられる。素晴らしい父娘映画。

重松清原作小説の映画化で、闇金ウシジマくんをはじめとしたキャラクタームービーの出演が近年多い印象の山田孝之が主演。監督は井上和香の旦那さんである飯塚健ですね。飯塚監督作品は全然観たことないのですが、監督・脚本・編集を手がける自分なりのこだわりを持っていらっしゃる方なのかなという印象。
脚本には少しだけ気になる点もあったものの、善人ばかりの優しい作品でありながら、監督なりの遊び心も見せてもらって感動もするしちょい笑いするような贅沢な118分を過ごさせていただきました。
完全に主人公・武田健一の10年の軌跡を追体験した感覚になり、演出面は申し分ありません。とても感情移入いたしました。

何よりも特筆すべきは健一と亡き妻がどれだけ愛し合っていたのかはほぼ描かれず、妻の死も序盤にさらっと演出される程度なところ。それなのに悲哀に暮れながらも“再出発”とカレンダーに記入して苦労を重ねながらも娘を懸命に育てていく健一の感情の細かい変化を表現していたのが凄いです。もちろん山田孝之の演技力あってこそですが、余計な説明台詞を排除して絵で見せる演出には好感を持てました。

仕事も元々営業で優秀な成績を収めるほどの人物だった健一。ですが、妻の代わりをも演じ、フレックス勤務が可能な総務部で働き続けるわけですから、健一の意思はかなりの強さだったことがわかるわけです。
職場でも理解者に囲まれるものの、自分だけ早めに上がって仕事を任せてしまうことに罪悪感を感じるようになりますが、このあたりの細かい心理描写も演出・演技ともに巧いと思わせられます。

またタイトルの“ステップ”にはいくつかの意味が内包されています。父親としてのステップアップ、家族として成長していく上でのホップ・ステップ・ジャンプ、そしてステップファーザー(継父)など血の繋がりのない家族の存在。
前2つはわかりやすいですが、継父との関係性がとても重要なものになっています。妻の父であり義理の父親となる村松明を國村隼が好演。彼なしに本作は語れないでしょう。
夫婦片方に先立たれるとまず問題になるのが義理の親との関係性にあります。ただ本作ではそこを決して乗り越えるハードルとしては描かず、主人公親子の良き理解者で本当の息子のように接してくれる優しい継父の存在として描きました。
世の中こんなにいい人ばかりではないという考え方もできますが、本作の伝えたかったことの一つとして、どんなに周りが理解をして協力をしていようと家族というのは血の繋がりだけで容易に作り上げることができないということだと思いました。

継父の明だけでなく、継母の美千代(余貴美子)や義理の兄・良彦(東京03角田晃広)、その妻・翠(片岡礼子)ら皆が支えてくれていますが、共に生活する娘の美紀とは必ずしも順風満帆にはいかないんですね。
私も高校からではありますが、母子家庭だったので、美紀が周りの子供たちよりも達観していて大人びた発言をしたり、妙に親に気を遣ったりする気持ちがわかる気がします。
物語の中盤から登場する健一の同僚である奈々恵(広末涼子)とも困難なく邂逅したと思いきや、徐々に歯車が狂い出していく模様も、娘の美紀が決して父・健一の新しい恋に反対しているわけではないのにという気持ちと裏腹な行動を取るのも凄くリアルに感じました。

妻の命がバトンのリレーのように繋がれていく本作の命の継承の描き方は見事です。家族の物語、再生の物語、などなど近しいジャンルが好きな方にはオススメしたい傑作です。
本当に家族として結ばれている俳優陣が皆自然体で接しており、演技と思わせない等身大のやり取りがとても感情移入を容易にさせます。

また本作で本筋とは関係ないものの、中川大志が所々出てくるのですが、これはちょっとした監督の遊び心として受け取りました。涙を自然と誘われる優しい物語の中でちょっぴり笑わせられる演出。とても面白いです。

※2020年劇場鑑賞83本目

★2020/7/25
ユナイテッド・シネマキャナルシティ13にて2度目の鑑賞。

今回は帰省のタイミングで母親と一緒に。

物語の全貌を知っていた分、2度目は最初のシーンから涙が出てきて、ずっと泣きっぱなしでした。1度目以上に泣いた。
継父母と料亭で食事するシーンが大好き。義理の父があんなに素敵な人だったら本当にいいよね。セリフの一つ一つが心にグイグイくる。
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