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ジョゼと虎と魚たちのshinkiのネタバレレビュー・内容・結末

ジョゼと虎と魚たち(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

オンライン試写会で視聴。原作は未読、実写映画も未視聴でした。

ジャンルは青春恋愛映画で、どちらかと言えば男性の主人公の視点が多いですが、『ジョゼ』こと女性主人公の視点も行き来し、どちらも感情移入は比較的しやすいという点で男性、女性どちらが観ても楽しめる作品になっていたのではないかと思います。そういう意味では「君の名は」的なポップさや一般受けを意識した作品だとも言えます。

実写版では恒夫はプレイボーイ設定のようですが、こちらでは真面目で夢に向かって一直線の好青年となっており、その点でも若い世代やアニメーションファンから敬遠されがちないやらしさ、不潔さがなく良かったと思います。演技にも違和感や気になる点はありませんでした。

『ジョゼ』ことくみ子について、一人称が「あたい」であることに違和感がある方もいらっしゃるでしょうが、生まれ持った障害の為に祖母によって外界から過剰に保護、あるいは隔絶されて育ってきた浮世離れした部分があり、自分が好きな本の登場人物の名前で自分を呼ばせるようなキャラクターなので、「おそらく好きな本の影響なのかな」という程度に解釈した為自分の場合はそんなに気になりませんでした。演じるのは元々声優ではなく女優さんとのこと。大阪出身ということで大阪弁はナチュラルでしたが、一部の演技については周囲の声優陣の演技や場面と若干のずれを感じました。しかしそれは全体のごく一部で、傷つくのが怖くてツンとした態度をうまく表現して魅力を示し、全体としては十分に良かったと思います。

大阪兵庫を舞台にしたことで、キャラクターの関西弁が作品の新鮮味や個性に寄与していたのと、大阪兵庫のデートスポットがロケーションになることでデートムービーとしての魅力とリアリティが増していたと感じました。また、実写版では雀荘でアルバイトの設定の恒夫をダイビングスクールで働き海洋生物学に並々ならぬ関心と夢を持っていることにしたことで、『ジョゼ』が憧れ描く海と魚たち、そして作品の重要なモチーフである人魚姫(『ジョゼ』の部屋はディズニーのリトルマーメイドのアリエルの部屋をオマージュしていると思われます)とうまく絡み合い、現実的な現代日本でのデート描写と空想世界をつなぎ合わせる役割を果たし非常によくマッチしたと思います。

作画面では、京都アニメーションの一部の作品や新海誠作品、ジブリなどの超一線級のものと比べれば(特に一部の人物描写等で)多少の見劣りはしますが、恒夫の潜る海の世界、『ジョゼ』の憧れる空想上の海の世界の描写は非常に美しく、また主人公二人が過ごし季節の移ろいの表現は『ジョゼ』の描く絵画のように美しく、映像化には十分以上に成功していると言えるでしょう。

音楽では、Eveの楽曲を多く使われています。好みの分かれるものというよりは一般受けしやすそうなポップなものが多く、この作品には概ねマッチしていたと思います。「君の名は」であったようなどうみてもPVに見えてしまうほどの過剰な演出ではないものの、一部近いものはありました。そこはもう少し控えめにできたかもしれませんが、好みの問題かもしれません。

ストーリーの展開や演出は概ね良かったと思います。終盤の『ジョゼ』による自らの絵本の読み聞かせのシーンは非常に感動的で泣かされました。ただ、リアリティーのある恋愛映画と捉えると、時にやや過剰なアニメ的表現(その辺にあるもので隣の人物の口をふさぐ、など)が浮いて見えることはあったのと、最後の雪道で暴走する車いすから『ジョゼ』を受け止めるシーンは、偶然としてはあまりに出来すぎで、全体のトーンが障害者福祉などにも一部言及するようなリアルなものだったこともあり、少しご都合主義的に感じるところはあります。絵的にドラマチックな終わり方が必要だったのかもしれませんが、もう少し展開の工夫や映像演出で無理のないシーンになればなお良かったと思います。

全体として、ハンディキャップについての掘り下げた社会派なメッセージや超一流レベルのクオリティを求める方には向かないかもしれませんが、恋愛映画にさほど抵抗がない方や、アニメファンであれば見て概ね満足できる作品だと思います。コロナ禍で外出やデートが難しい時代に、デート気分で見に行ったり美しい映像や物語で感動したい方には是非とも勧めたい映画です。
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