人妻を暴行した犯人という冤罪を着せられ逮捕されたセールスマンが警察から脱走して、自分に罪を着せた人妻を強引に逃避行へ連れていくうちに愛が芽生えるというポルノ映画。もっともこの映画が作られた頃はまだピンク映画という名称が定着しておらず、独立プロ製作の成人映画というカテゴライズで公開されておりホテルとのタイアップもされていたりする。また予算もポルノとしては潤沢で(この頃は一時間もののテレビドラマと同じ制作費だったという)、エキストラも結構登場して画も結構凝っているて低予算映画特有のみすぼらしさは感じられない。

前年監督デビューしたばかりの若松孝二の演出はまだ平凡な印象があるが、それでも主人公が冤罪を切っ掛けに反権力精神を持ちはじめ検事の妻を愛することで権力の象徴を汚すというストーリー展開に後にアナーキストな作風で一世を風靡する若松監督の特徴がにじみ出ている。そして話の構造が後年の『狂走情死考』と似通っているのも興味深い。

この後アニメの声優で活躍する神山卓三が気の弱い実直なセールスマンを好演、また同じく声優として有名になる寺島幹夫が尊大な検事を見事に演じて映画に厚みをもたらす。一方ヒロインの路加奈子は大根としかいいようのない演技をしているが、若松監督が上手くカバーしているのか夫の言うことに黙って従うヒロイン像によく合っていた。

八丈島でロケーションを行った後半のダイナミックな映像も見所の一つ。