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ナショナル・シアター・ライヴ 2020 「リーマン・トリロジー」のkotakotaroのレビュー・感想・評価

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NTlive アンコール上映で観た(2回目)。イギリスのナショナルシアターで上演された舞台の上映作品。

アラバマの3兄弟が始めた小さな衣料品店がウォールストリートで世界屈指の投資銀行になり、破綻するまでの160年間の物語。3兄弟を始祖として、その息子たち、後継者たちが事業を拡大させる栄枯盛衰のパワーゲーム。敗北を宣言され退場する人や、資本の熱狂の中で踊り続けて死んでいく人。


演技、音楽、舞台演出どれもが高いレベルで互いの相乗効果を生み出していて素晴らしかった。役者3人とピアノ演奏1人というミニマムな構成で無駄がない。背後に投影された映像と回転する舞台装置で、舞台がアラバマの荒野になったり、ニューヨークの高層ビルのオフィスになったりする。

衣料品、綿花、石炭、鉄道、石油、証券と事業を拡大させていく展開は観ていて気持ちが良いが、塔の崩壊のメタファーが要所要所で展開され、物語に通底する不穏さを意識させられる。


ピアノの軽快な演奏とともに、セリフの掛け合いで事業拡大を表現する場面がいくつかあって、舞台ならではの演出だった。役者も演じるのが楽しそうだった。特に路上のカード師のカード当てゲームの場面。次男エマニュエルの息子フィリップがシャッフルしたカードから勝ち札をどんどん当てていき、事業がどんどん成功していく様をテンポよく表している。他にも綱渡り師の失敗が暗黒の木曜日の始まりとともに語られる場面とか、比喩と言葉遣いがおしゃれだった。

フィリップが、金が金を生む金融資本主義を唱え、ビジネスのルールが変わったことに気づけなかったマイヤー、エマニュエルが退場を宣告される場面。

第2幕、第3幕から加速的に事業が良からぬ方向へ向かっていくのに伴って、亡くなった一族の人の喪に服すユダヤ教のしきたりの時間が短くなっていく。最後は3分間だけ、競争に置いていかれてしまうその時間が惜しいから。

暗黙の木曜日が始まり、トレーダーたちが次々と拳銃自殺していく、その拳銃の音が、フィリップの息子ボビーの観戦する競馬レースのスタートの合図となる演出。競争の終わりがまた新たな競走のスタートになる社会構造を表現している。

若者2人が役員室にやってきて、新技術であるパソコンで世界共通語を作ると訴える。やや誇張が強い感じがしたが、それはそのままバベルの塔のメタファーになっていて、インターネットを用いた現代のトレーディングが始まり、それがリーマンショックへと繋がっていく。

等々、場面ごとに語る要素がとても多い洗練された舞台だった。
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