虎舞羅ーコブラー

るろうに剣心 最終章 The Beginningの虎舞羅ーコブラーのレビュー・感想・評価

5.0
「シリーズの原点にして頂点、最終作にして最高傑作。幕末の動乱に芽生える淡き恋、そして抗えない残酷な宿命。全ては、此処から始まった――」

個人的には大好きなシリーズ、実写版るろうに剣心。逆刃刀を使ったハイスピードアクションに魅了され、邦画アクション映画の私的オールタイムベスト。その中でも本作は、私も声を大にして言える〈最高傑作〉。
その大好きな剣心が“人斬り抜刀斎”として動乱の幕末で暗躍していた過去、そしてなぜ“二度と人を斬らない”と誓ったのかを、シリアスに描き出します。

本作は、オープニングから今までの作品との違いを見せつけてきます。囚われた剣心。そして口に刀を咥え、腕を拘束された状態から急所を的確に狙っていく、今までにないバイオレンスな戦闘シーン。幕末の“抜刀斎”こと剣心の斬殺スキルを血生臭く描き、観客に恐怖感すら覚えさせます。
シリーズの中でも一番〈時代劇〉らしい仕上がりになっていると思います。現代的な人物はあまりおらず、作中の雰囲気はまさに時代劇そのもの。The Finalでの“維新の安定”を表す明るく明快な色彩とは真逆の、“新時代の黎明期”を思わせる藍色と白墨色の暗いコントラスト、そして哀しく美しき白の雪景色。その“色彩”の使い方までもが計算された、美しい時代劇としても秀逸ではないでしょうか。
アクションは今までよりも少ないものの、その一つひとつが強烈。“殺人術”としての飛天御剣流を余すことなく披露してくれています。真剣ではどうしても[一発勝負]になってしまうので単純になりがちですが、本作ではアクション好きの私の期待を超えて唸らせてくれました。スピード感溢れる身のこなしと、そこから繰り出される剣戟。心臓や頸動脈など、急所を確実に狙うバイオレンスなアクションも見劣り無し。流血などが苦手な方は疲れるかも知れませんが、それでも見る価値はありです。
そして俳優陣の演技も勿論違和感無し。佐藤健さんの“剣心”と“抜刀斎”の巧みな演じ分けには脱帽。人斬りらしい鋭い目つきや冷たい口調、そしてそこから段々と情を持ち始める姿には心を打たれます。そして有村架純さんの美しく儚い演技も魅力的。高橋一生さんも中々良い味を出しており、キャスティングはもう文句なしの一級品。

刀で腕が簡単に刎ねられ、生々しい傷口からは鮮血が飛び散る。“幕末の勇士”と呼ばれた者の姿は、あまりにも残虐な人斬りだった。
しかし3桁の人間を殺めてもなお、彼の心には穢れ一つ無かった。貪欲さの欠片も無く、ただ純粋に平和な世の中を願い、狂気を剥き出しにして戦っていた。彼は“単純な殺人鬼”ではない。自らの行いに罪悪感と戸惑いを感じていき、いつしか潰されそうになっていた。好きで人を斬っている訳ではない。
そんな“狂気の鞘”になるという、美しき女性との出会い。次第に惹かれ合い、共に暮らしていく中でかけがえのない“幸せ”を実感していく。動乱の中で失っていた、“人の温もり”を初めて実感した瞬間だった。
彼女は、彼への復讐が目的だった。しかし、彼への想いが溢れていく。彼女が一度は失った幸せを、彼は今度こそ守り抜いてみせると誓ってくれた。
幸せを奪った人。幸せをくれる人。彼女から幸せを奪ったものの、それに匹敵するほどの幸せを、彼はくれた。その純粋無垢な心で。
ずっと一緒にいられたら。ずっとずっと、こんな幸せが続いたら。そう願う二人を、残酷な宿命が飲み込んでいく。
その宿命の中で、彼が得た十字傷。ある男の幸せを奪い、そしてその妻になるはずだった女性と過ごし、愛し合った大切な日々。薄暗い闇の底に、光を照らしてくれた女性。その名は“雪代巴”。
巴は彼とずっとこの動乱が終わろうと共に生きるため、彼が奪った命の数以上に、沢山の人々を救う姿を見届けるため、彼の頬に、大切な懐刀で傷を加えた。
頬に十字傷の男、その名は“緋村剣心”。後に刀を捨て、流浪人として人々を救う存在。彼は十字傷として残った巴の思いを携え戦う。
「I smash my broken Heart of Gold」壊れてしまった優しき心を打ち砕き、剣心は前に進む。燃え盛る、巴との思い出の場所を背に。

これで、終わる。ここから、始まる。

剣心の、人々を救う旅は、これからも続いていく――