sonozy

17歳の瞳に映る世界のsonozyのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.0
ペンシルベニアで暮らす17歳の高校生オータムが予期せぬ妊娠をして、保護者の同意なく中絶ができるNYへ従姉妹のスカイラーと2人、バスで向かう物語。

高校の学芸会。家族や生徒が見る中、ステージに出てきたオータムは、緊張した姿でExcitersの“He’s Got The Power”を弾き語る。
“私が望まないことをさせられるが、離れられない。きっと彼には愛の力があるに違いない。”的な歌詞を静かに歌うが、1人の男子が“Slut!(アバズレ/やりマン)”と野次るというオープニング。

このところ気分が悪く、お腹の膨らみも気になるオータムは地元の小さな産婦人科を訪れ、市販の妊娠検査薬で妊娠と分かる。オータムの表情を見て女医は中絶禁止のビデオを見せたり。

親にも言えず、産むという選択肢など考えられないオータムは、膨らんできたお腹を殴ってみたり、ビタミンC剤を大量に飲んでみたり・・

同じスーパーのレジ係のバイトをしている、唯一の友人(従姉妹)スカイラーはオータムの妊娠を知るとレジの売上の一部を盗み、多くを語らぬまま、早朝NYへのバス旅へ向かう。

無愛想な感じのオータム(シドニー・フラニガン ※ジャケ写右)と、男から誘われやすいスカイラー(タリア・ライダー ※ジャケ写左)。
二人に会話は少なく、スカイラーは静かにオータムに寄り添ってくれる存在。

手術は1日で終わると思っていたが3日間かかり、地下鉄の乗り方も分からないようなNYで、手持ちの金も少なく宿も取らずの二人の不安な感情・行動をリアルに捉えていく。

野次った男子、理解のなさそうな父、セクハラなスーパーのマネージャー、バスの中でスカイラーに声をかけてきたジャスパー、深夜の地下鉄での露出野郎、そして、手術前のカウンセラーの質問のシーンで見えてくるオータムを妊娠させた男との関係・・
二人を取り巻く男たちのハラスメントが重くのしかかっている状況が分かります。

原題「Never Rarely Sometimes Always」は、カウンセラーの質問にオータムが4択で答える印象的なシーンから。
「Never=一度もない、Rarely=めったにない、Sometimes=時々、Always=いつも」
Q: 相手がコンドームを拒否することは?
Q: 脅されたり、傷つけられたことは?
Q: したくない時に無理やりされたことは?
・・・
辛い質問が続き、次第に答えられなくなり、涙を流すオータム。
淡々とストーリーが進む中、このシーンが一番辛い。。

米国では、中絶を規制する州が増加し、自身で処理する「self-induced abortion(自己堕胎)」が検索トレンドになっているとか。
女性監督エリザ・ヒットマンが、男たちのハラスメントによる望まぬ妊娠に対する現状を静かに訴えた作品とも言えそうです。

ベルリン国際映画祭: 銀熊賞(審査員グランプリ)
サンダンス映画祭: ネオリアリズム賞
全米映画批評家教会: 脚本賞
ニューヨーク映画批評家協会: 脚本賞・主演女優賞
ほか多数
sonozy

sonozy