Chico

17歳の瞳に映る世界のChicoのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
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5月初め、米国で「ロウ対ウェード判決」を覆す連邦最高裁の草案がリーク。政治専門サイト「ポリティコ」がその文書を報じた。これにより妊娠中絶を巡る議論でアメリカ国民はプロ・チョイスとプロ・ライフに二分されてしまった。
リベラルと保守の対立から一気に保守派優勢の動き。政治的に再び重要な争点となった中絶問題。アメリカはどこに向かうのか。
本作は今まさに渦中にあるアメリカにおける妊娠中絶をテーマにした作品(作品は2020年制作)。舞台は米国ペンシルベニア。17歳の女子高生、オータムが自身の妊娠を知ったところから物語は始まる。全体的に静かな作品で、暴力的な描写があるわけではない。だけど若い女性に対する男性の視線の描き方は胸糞悪い。主人公は無表情でセリフもほぼ無い。彼女がそうせざる得なくなった背景も曖昧なまま進んでいく。しかし、原題でもあるNever、Rarely、Sometimes 、Always (全くない、めったにない、時々ある、いつも)、を問われるシーンで、'ああ、なるほど、う〜ん'と苦しくなる。カウンセラーとの素気ないやりとり、そして沈黙。そのシーンに作品の核がぎゅっと凝縮されている。
映画にはプロライフ側の運動や視点も盛り込まれている。しかしそこにシニカルさは感じなかった。そんな現実も踏まえた上で、シンプルに命の尊さを考える重要性を訴えている。当たり前だが中絶は何々派とかそう言う政治的なポジションで語る以前に個々人の問題。彼女達がそこに追い込まれた理由や、その状況を生み出した社会的背景を考えないと解決しない。(だからこその選択の自由だと私は思う。)
複雑な面持ちで帰路に着いた彼女達の胸中を察すると辛くなってしまう。

(落ちる要素あり。観る時は体調と相談しましょう)

※度々出てくる'邦題どうなの問題'。本作のはマジでいただけない。
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