CHEBUNBUN

17歳の瞳に映る世界のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
3.5
【生も死も最後に選ぶのは自分】
第70回ベルリン国際映画祭で審査員賞を受賞した『Never Rarely Sometimes Always』を観ました。本作は、東京国際映画祭の作品選定過程であまりに多いティーンの妊娠ものに辟易しがちな矢田部さんも賞賛する作品で『4ヶ月、3週と2日』を彷彿とする内容だそう。実際に観てみると、感情的になりがちなこの手の映画としては珍しいぐらいに落ち着いた代物となっていました。

学校のイベントで生徒たちが歌ったりパフォーマンスをする。Autumn(Sidney Flanigan)も歌を披露するのだが、男の「ヒュー」という野次に翻弄される。彼女には、秘密があった。望まぬ妊娠をしているのだ。しかも男は責任を取ってくれない。通常であれば『東京暮色』のように男を問い詰める場面が展開されるのだが、そういったクリシェを避けていく。この作品は望まぬ妊娠における人間関係の崩壊を描くのが目的ではない。望まぬ妊娠の問題解決とは、つまり一人の若者が自分で生か死を選ぶことなんだという意志が静かにフレームを覆っていくのだ。

彼女は人工妊娠中絶手術が受けられる期間のタイムリミットが迫っており、苦渋の選択故、ニューヨークの病院へ行くこととなる。しかし、彼女には金がない。そんな彼女をサポートしてくれるのは親友Skylar(Talia Ryder)だ。彼女は、監視カメラをものともせず、バイト先から金をふんだくり、共にニューヨークを目指す。しかし、行き当たりばったりな旅はそうそう上手くはいかない。病院の先生からは「予約があるから別の日に来てください」と言われてしまう。お金は底をつき、駅に寝泊まりするが、警備員に出て行けと言われてしまう。そんな中、青年が現れる。そして、Skylarは彼と恋仲になっていき、Autumnは孤独に苛まれながら中絶手術を受けることとなる。

本作は、中絶場面も物陰から覗き込むようにして描かれる。この手の作品にありがちな、痛みによる叫びや、生と死の狭間におけるスピリチュアルな感情表現はなく、淡々粛々と中絶を選択する女性を捉えている。結局のところ、生も死も最後に選ぶのは自分自身だということを感情的部分から離れたところで描いているのだ。それにより、Autumnが接吻を交わすSkylarの指を触れるシーンに残酷な切なさが宿る。

絶望の淵に立たされた者の前に進むしかない辛さをここまで逃げずに描き切ったイライザ・ヒットマン、今後期待の監督です。これは日本公開決まってほしい作品でした。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN