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生きちゃったのnokonokoooのレビュー・感想・評価

生きちゃった(2020年製作の映画)
4.0
夫婦の話、愛の話という面だけで観ると
引っかかる所はあるんだろうけれど
個人的には、死んだ目をした大人に
喝を入れるような社会的側面の方を
強く感じたので気にならなかった。

終始おぼつかない主人公の足元。
社会、天災、暴力、出会い、欲望…
大人になるまで、大人になっても
いつも私たちは何かしらの
不可抗力に晒されている。

諦めや忘却は、その不可抗力に
少しずつ命を渡すことなんだと思う。
そうして、本当に大切なことの判別さえ
ままならなくなる。

どうしようもないこと、
どうにもできないこと。
ぼんやりした目で彷徨いながら
慣れ親しんだ諦めと忘却に
どこか居心地の悪さを感じているような
主人公の佇まい。
懸命に不器用にその不可抗力に
静かに抗おうとする
燻りさえ感じて、息が上がった。

命が燃えるようなラストシーン。
抗うことこそが、生きるって
ことなのかもしれない。

悲しみを表出できない彼が
英語だったら言える本音があるのは
日本人らしさ、もっと言えば
日本の男らしさの呪縛のようにも思えた。

生態系の仕組みみたいに
誰かが居なくなった場所には
代わりの誰かが収まって、
元いた人はいつしか幻みたいな
感覚になる。
そうやって居場所は人間によって
リサイクルされていく。
再婚相手に首を振り続ける兄は
「弟を亡き者にするな」と
懇願していたのかもしれない。
諦めと忘却に慣れた大人とは反対に
娘はしっかりと力強くいつも
そこに真っ直ぐな眼差しで立っている。
そして彼女は忘れない。
父親の顔も、影絵の思い出も。

カメラワーク最高。
キャスト最高。
石井監督天才って見てる中で
何度も思った。

対比や構成の切れ味、
入れてくるエッセンスが絶妙で
すごく層が厚い作品になってる。
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