菩薩

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実の菩薩のレビュー・感想・評価

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熱情も敬意も他者という概念そのものが危機に瀕する時代、過去を懐かしむでも羨むでもないけれど、この討論に深く感銘を受けるものが当然ある。言葉が力をもった最後の時代と言うけれど、本来言葉は全ての時代において力を持っていなくてはならない。ただこの政治の季節を過ぎ、敗北の時代を経て、その先にある白けを今も尚引きずりながら、常に冷笑のみが先立ちその先には絶対の絶望を抱えながらも、私達は日々を生きていかねばならない、そうでなければ三島の様に腹を切らねばいけない。三島がここで見せた態度と言うのは、先に生まれ先に死んで逝く一つの存在としての当たり前の矜持であり、また責任でもあると思う。だからこそ責任を伴う言葉には力が宿るし、三島はそれをユーモアで包み込む事により、一人の物書きとしてのしての責任すらも果たした。この千人との対峙がこの後の千人との対峙に繋がり、そこで真の敗退を喫した三島は然るべき宿命を辿る。この国の最高学府の知が発する観念的な発話の全てを理解するなど到底不可能だし、それこそ異様な迄の気迫を放ち自らの「国家」を成立させ背負いぶつけてくる芥正彦なんてそれこそちょっと何言ってるか分からな過ぎるが、芥氏がふと三島のショートピースに火を付ける瞬間に漂う圧倒的なエロティシズムと瞬間的な美、あれこそがこの討論会が伝説と評される象徴であると思うし、本来人間と言う存在が持ち得る美そのものでもあると思う。
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