朝田

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実の朝田のレビュー・感想・評価

1.8
まず正直に言ってドキュメンタリーとしてはそこまで出来は良くないと思う。いかにもTBSが出資したんだろうなあと思わせるダサいフォントのテロップを多用するテレビ的な編集は酷い。取材する人間が三島のファン(瀬戸内寂聴)や研究者、当事者なので、両者に対する批評性も薄い。三島の盾の会も東大全共闘も正義感溢れるインテリとは言え体制としてはカルトあるいはテロ集団の側面を持っているし(ファイト・クラブが過激な新興宗教になっていたように)、彼らの思想の危うさを客観的な視点で語る人間の視点を入れることは必要不可欠に感じる。しかしだからといって今作はつまらないのかと問われれば否と答えたい。実際に三島と東大全共闘の論争を捉えた映像が素晴らしくスリリングなのだ。想像よりも和やかなムードが漂っているのだが、その和やかさの裏から滲み出る殺気や緊張感が画面に漲っている。実際前の客席には全共闘の支持者たちがボディガード的な役割で三島を監視しているし、三島側も盾の会の部下に東大の教室を占拠させたりと互いにいつ戦いを始めてもおかしくないギリギリの状況にあった事は想像に難くない。だからこそその危険を本能的に避けようとした両者がどこかリラックスしたムードを生んでいるのだろう。また、テレビ的な編集は施されているものの、放送禁止用語や倫理的にアウトな行為が納められているため、映画にしか出来なかった作品にはなっている。三島と全共闘は右翼と左翼という対立で議論していたはずが、両者がいつの間にか同じ方向を向いていた事に気付き出す過程も面白い。ドキュメンタリーとして見れば然程面白くはないが、とにかく素材の良さが光っている作品。東出のナレーションは聞き取りやすく良い仕事をしていたので今後もスキャンダルに負けず活動していって欲しい。
朝田

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