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三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のIri17のレビュー・感想・評価

4.5
noteにまとめたので以外コピペです。


1969年に行われた作家三島由紀夫と左翼系学生による学生運動である東大全共闘との間で行われた討論会を約50年ぶりに振り返るドキュメンタリー作品です。TBSだけに保管されていたスクープ映像を交え、討論会と当時の社会状況、三島という人間の本質に迫っていきます。

三島由紀夫はノーベル文学賞の候補になるほどの日本を代表する純文学作家です。『潮騒』『仮面の告白』『金閣寺』『美しい星』など、素晴らしい作品を数多く発表します。過激な皇国主義者であり、民兵組織「楯の会」を結成、市ヶ谷駐屯地を襲撃し、天皇主権を要求するクーデターを起こすも失敗して自決します。

全共闘は60年代末期の左翼的な学生による学生運動です。大学や国家などに対する反体制運動、及び当時激化していたベトナム戦争への反戦運動です。中国の文化大革命に影響を受け、暴力を用いた革命も辞さないとした為に、機動隊との全面衝突を迎え、学生間の考え方の違いから内部崩壊していきました。

非常にシンプルかつ誤解を恐れない言い方をすれば、この討論会は三島という最高知性の右翼と東大全共闘という最高知性の左翼の知と知のぶつかり合いです。

国家と個人、事物と認識、歴史と時間の連続性、表現と政治性、そして天皇、三島と全共闘の芥正彦らの白熱した討論が続きます。ここで討論の内容の言及にしてしまうと、論文になってしまうので割愛させていただきますが、全く考え方の異なる両者の意見は実は同じ方向を向いていたように感じます。

三島も全共闘も怒りや向けていた対象は同じで、それは「曖昧な日本」でした。考えることや決断し、行動することを放棄した日本という国のあり方に向けられた怒り。全共闘は国家や民族を越えようとし、大日本帝国の時代に青年期を過ごした三島は天皇という存在を中心に民族自決の自立した日本を取り戻そうとしたのです。生まれた時代や環境の差による埋まらない価値観の差があったものの、両者は暴力を肯定し「曖昧な日本」を変えようとしました。その意味で、盟友だったのかもしれません。

個人的な考えを言うならば、暴力で何かを成し遂げようとした三島も全共闘も間違っていたと思います。しかし、自分で考え、何かを変えようとしたことは称賛に値します。今、国体を変えようと発言したり、行動する作家がいるでしょうか?国や大学のシステムに怒り、デモをしようという大学生がいるでしょうか?現代、残念ながら「曖昧な日本」が勝利してしまったような気がしてなりません。
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