ブラックユーモアホフマン

マリグナント 狂暴な悪夢のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

マリグナント 狂暴な悪夢(2021年製作の映画)
4.7
味わい深い映画だったなぁ……。

今年は特に積極的に新作を追ってはいなかったけど、こればっかりは公開日に観ないと。ジェームズ・ワンの大ファンとしては。だって「エンフィールド事件」以来のホラーですよ。5年ぶりよ。そりゃいち早く観ますとも。

そして、さすがでした。

ネタバレになりかねない感想は下の方に書くとして、まずガワの話。

音楽が超カッコいい。

ジェームズ・ワンは『インシディアス』以来ずっとジョセフ・ビシャラと組んでるけど、今回またビシャラ氏の新たな音楽性が引き出されていた。やはり天才なのかこの人。

いったいジェームズ・ワンはこの逸材をどこから見つけてきたのか。馴れ初めを本当に知りたい。

いわゆるホラー映画の劇伴らしい”こわい”音楽ではあるんだけど、同時に超カッコいい。
ジャンルで言うと何?パンクロックっぽいところもあるし、でも打ち込みの音もあってテクノっぽい要素もある?
『ストレンジャー・シングス』とかの流行り感もありつつ、ジョン・カーペンターっぽくもありつつ、なんならルドヴィグ・ゴランソンの『TENET』っぽさもあったかも。でも怖い。カッコよくて怖い。とにかく素敵。


ここから内容に触れますので映画未見の方は注意。


ジェームズ・ワンの今のところの集大成的な作品だった。過去作すべての要素を見て取った。

特に初期作品への回帰を感じた。

ゴア描写や、音楽のテイスト、ガブリエルのヴィジュアルも『ソウ』にあったセンス。
また後半が刑事アクションものになっていく構成は『デッド・サイレンス』に既にあった要素。
さらにまたこのアクションシーンの異常なテンションと、血と汗と雨でじめっとした画面は『狼の死刑宣告』的でもある。

この初期のジェームズ・ワンの感じは久々で、ファンとしてはテンション上がる。そしてもちろん昔よりさらに洗練されている。

さらに言えば、印象的な赤いネオン。これも『デッド・サイレンス』や『狼の死刑宣告』で使っていた。相当好きなのだと思われる。

当然、心霊ホラー的な描写で見せる前半は『インシディアス』や『死霊館』のシリーズでもお分かりの通り、お手の物。さすが。
そしてアクションシーンが多くなる後半には『ワイルド・スピード SKY MISSION』『アクアマン』での経験が活きていることは間違いない。

主人公自身も覚えていなかった過去を、お母さんと一緒に掘り返す話というのは『インシディアス』もそうだったし、電子機器を使って悪魔的な存在の声が聞こえるという描写も『インシディアス』にあった。現実と悪夢的世界が混ざってしまう感じも『インシディアス 第2章』とかに似てる。

などなど、集大成だと思う理由を挙げ始めればキリがないほどだけど、今回はさらなる飛躍があった。

今回も今まで同様、様々なホラー映画の名作への愛を感じた。やっぱり『シャイニング』好きなんだろうなーとか、『ジョーズ』みたいなカメラワークだなとか、ビデオテープは高橋洋(『リング』)と黒沢清(『CURE』)だろーとか。これらは過去作にも感じた部分だけど、今回飛躍があったというのは、

クローネンバーグかなと思った。
今年観た『ザ・ブルード/怒りのメタファー』を思い出す。ああいうキモさ。

中盤までは、後輩デヴィッド・F・サンドバーグの『ライト/オフ』や盟友リー・ワネルの『透明人間』を想起させる。あれ?大丈夫?この感じ他で観たことあるよ?って少し思った。しかしそれは、ほとんどミスリードにも近いフリなのだった。
ズルいのは二人より後にやって一番上手くやっちゃうところね。これもキューブリックっぽいし、スピルバーグっぽくもある。

ジェームズ・ワン流の『ライト/オフ』でもあり、ジェームズ・ワン流の『透明人間』なのかな、というのもあながち間違いではないのだけど、

最後まで観るとジェームズ・ワン流の『ザ・スイッチ』でもあったなと思う。しかしあんなにポップではなくもっとグロくてエグくてキモい。素晴らしい。やはりマジで信頼できる男だジェームズ・ワン。

ちょっと真面目そうなテーマも盛り込みつつ全力でエンターテイメントに振ってるのも本当に素晴らしい。絶対に”ご立派”な映画なんて作らないという意志を感じる。カッコいい。本当に尊敬します。

ちなみにキャストがほとんど知らない人だったのも良かった。主人公マディ役のアナベル・ウォーリスは『アナベル 死霊館の人形』の主演でもありましたね。そっちは観て、まあまあ面白かった気がするけどあんまり覚えていない。

そして回想とビデオテープの映像で登場するのが、引っ張りだこすぎる(『アナベル 死霊博物館』にも出ている)マッケンナ・グレイス(またかよ!!×n回目)と、『死霊館 エンフィールド事件』のマディソン・ウルフ。
大人のキャストが無名な人ばかりな中、むしろこの2人が一番のスターキャストって感じ。

ちょっとだけ出てきたマディとシドニーの父親が、『IT “イット” THE END』で大人スタンリー役で出てた人だったけど本当にそれくらい。

でもまさかのゾーイ・ベルの出演!!これは嬉しいサプライズ。

惜しかったなーと思う点としては、まずビデオテープの映像。Jホラーをオマージュしているのであれば、あの映像自体をもっと禍々しくしなければダメよ。映ってるのがマッケンナ・グレイスとマディソン・ウルフなのが正直、逆効果だったかもしれない。知ってる俳優だから安心感が出ちゃった。

あとは病院の廃墟に忍び込むシーン。あんなに素敵な建物なのにちょっとしか出てこなくて残念。あそこもっと膨らませられるでしょ。
そしてラスト。あの逆転の展開は素晴らしかったけど、その後があまりにアッサリしてて。でもあれは続編作る気マンマンなんじゃないかと踏んだね……。だから、あの病院の廃墟も続編で再登場する可能性はある。

いやー楽しかった。もう一回観てもいいな。味わい深い。

【一番好きなシーン】
・天井が崩れて落ちてくるシーン。あれは素晴らしいわ。映画のマジック。
・オッサンが暗いクローゼットにゆっくり入っていくカットと、その後のベッドの下から撮ったカット。
・ショウ刑事がガブリエルを追うシーン。地下に洪水対策で埋められたかつての街並みが残ってるっていう話もめっちゃ良い。『機動警察パトレイバー the Movie 2』の幻の新橋駅みたいな。そして天井が崩れるシーンとも繋がるけど、隠された過去のものに気づかずに暮らしているという構造がまさにこの話の核、後に明かされる真相を視覚的に表現してもいるし、また高橋洋的でもある……。
あと地下に入っていくところでガブリエルが四つん這いで動くのが『エクソシスト』的な動きに見えて、なんで?笑 とそこでは思うんだけど後になってなるほど、と。