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MINAMATAーミナマターのぷりんのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
4.6
「絶大な権力を持つ会社とその会社による公害被害に苦しんでいる市民がいたら、ジャーナリストは市民に100%の見方をすることで初めて中立な報道になる。なぜなら権力側は自分で広報ができるが市民にその力はないからだ。消して両者の中間に立つことで中立だと履き違えてはならない」

ジャーナリズムを机上で学ぶと教科書の1ページ目に書かれているような当たり前のことだ。しかし、実際自分がユージンの立場に立った時、この鉄則をまっとうできるだろうか。この問いを常に考えさせられる2時間だった。

近年、マスコミを叩く風潮がネット上のみならず現実社会においても普通に見受けられるようになった。現実世界においてユージンのような「かっこいいジャーナリスト」になることは決して容易ではない。近代になって新自由主義やグローバル化が加速し、社会問題が複雑に絡み合うようになった一方で、日常的にテレビや新聞から情報を得る人が減っているためマスコミが置かれた社会環境も年々厳しさを増している。人員や給与が減らされ続ける中で、市民の味方をするジャーナリストはこれからも現れるのだろうか。2021年の今、同じような事件が起こったらジャーナリストはどのように動いているだろう。

スミスだけが理想のジャーナリストではない。批判されがちだが面従腹背という方法もある種の現代における権力との戦いなのかもしれない。新聞社が遅れているデジタル化にヒントがあるかもしれない。21世紀の新しいジャーナリズムに期待せずにはいられない。

映画としては、予習なしに鑑賞したこともあって、富士フイルムのCMや2人の恋愛関係のくだりがよくわからなかった。ても、そんなことが気にならないくらい世界観に引き込まれてゆく映画だった。カメラワークや見せ方も素晴らしいと思う。
強いて言うなら、日本の映画会社が作るべき作品だったようにも感じる。

最後になるが、この作品に複雑な思いを抱える地元の人々があることも理解している。映画では全く描かれないが日本のメディアは当時どう動いていたのだろう。水俣病の名称が使われ始めて63年以上が経過した今だからこそ、改めてマスコミに期待されている役割が大きそうだ。
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