以前、ユージン・スミスのドキュメンタリーをTVで見たことがあった。
その時、私の心に一番残ったのは、
ユージンと田中実子さんという少女との関わりだった。
2歳半で水俣病を発症した実子さん。
ユージンは18歳だった彼女と出会い、1000枚を超える写真を撮った。
「実子ちゃん ハッとするほど美しく生きている18歳の女性」
「私はこれまで多くの写真を撮ってきたが、この世に生きる人間で実子ちゃんほど
私の心をかき乱した人はいない。
実子ちゃんを撮ろうとするのは
あなたの素早く変わる心模様に触れるようで、 私は大きな間違いをしているのではと
おそれを感じる。
私には分かる。
私が実子ちゃんを撮った写真は、
全部 失敗作だと。
実子ちゃん 私は君を愛している。
実子ちゃん 愛している」
ユージンのこの言葉に、そして撮影の風景に、私は心を揺さぶられた。
実子さんのことを語る時、ユージンは決まって涙を流していたという。
私の中で、ユージンとはこういう写真家だ。
話すことも自分で食べることもできない、生活に全面的に介助が必要な1人の女性の中に、美しさを見出すことができる人。
今回、映画化されたこの作品を観たが、
ユージンの人間性と水俣の被害者たちとの関わりが、深く描かれていないことを残念に思った。
物語をわかりやすくするためだろうが、史実と違う描かれ方をされたシーンも多く、疑問も残る。
しかし、映像と音楽が美しく、ジョニー・デップをはじめ日本人俳優たちの演技も素晴らしかった。
脚色があるにしろ、入浴する母子を撮影するシーンは、その緊張感が伝わってくるようだった。とても印象に残っている。
この作品が、ユージンのことや水俣のことを調べるきっかけになるといい。
私も、本や写真集を読んでみようと思っている。