saeko

エイブのキッチンストーリーのsaekoのレビュー・感想・評価

3.8
我々は飯を食わねばならぬ。「人間が逃れられないものは死と税金」との名句を残したのは『ジョー・ブラックによろしく』だけど、その中に間違いなく「食事」も入ってくるだろう。我々は飯を食わねば生きていけぬ。

突き詰めて考えれば食事とは生命の存続のための最低限の行為なのに、そこに多様な愉しみを見出しているところが人間の面白いところだ。美味しい食べ物が嫌いな人はそういない。料理の仕方、食材の保存の仕方にはその国の風土や文化が反映され、アイデンティティの一要素となる。今どきならお洒落のためにも飯を食う、飲食店の店内に鳴り響くシャッター音。インスタにあげるまでがお食事ですってか(人のこと全然言えない)。我々は一体何を食っているのだろう。

この物語はそんな「食」に興味津々の少年エイブが主人公。イスラエル出身の母とパレスチナ出身の母を持つ複雑な出自を持つエイブは、食に対する好奇心を純粋に探求しながら、家族間の宗教的・文化的な対立を解消するために、人々を繋げる究極の「フュージョン」料理を生み出そうと奔走する。そんなエイブ(akaめちゃくちゃ美少年)の真っ直ぐないじらしさと、マクロで写し出される調理中の食材たちの美しさ、ブルックリンのフードフェス(Smorgusburgかな?)の賑やかさ、そして現代風のSNSを取り入れたポップな演出が見る目に楽しい。

起承転結は悪くないけど正直先が読めて微妙なところもあり、肝心なシーンで深いことを言いそうで特に大したこと言わないなとズコーッとなったりしたけど、だからこそ気楽に楽しめる一本かなとも思う。

映画館で見終わってすぐにエスニック料理店に駆け込んだ。
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