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パーム・スプリングスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

パーム・スプリングス(2020年製作の映画)
3.9
 カリフォルニアの砂漠に位置するリゾート地パーム・スプリングス。ここで11月9日に盛大な式が行われようとしていた。妹タラ(カミラ・メンデス)の門出を祝う大事な結婚式にもかかわらず、姉サラ(クリスティン・ミリオティ)の表情はどこか冴えない。結婚式では妹の介添え人を務めることになっているが家族の中でいつも異端児扱いされ、仲間外れだった彼女にとっては今回の式は心底、憂鬱でしかなかった。それでも残酷に時間は経過し、サラのスピーチの時がやって来ると、秋なのにアロハシャツに短パン姿の風変わりによれた男がふらっと現れるのだ。夢にまで見た「ボーイ・ミーツ・ガール」の瞬間はとぼけた味わいと妙な余韻を残しながら不意にやって来る。サラは自分に向かい語りかけるような男の言葉に耳を傾けるが、ナイルズ(アンディ・サムバーグ)を妹の友人ミスティ(メレディス・ハグナー)の恋人としてしか認識していない。しかし男の目線や表情を見れば、男のアプローチはあまりにも真っすぐにダイレクトにサラの心に迫るのだ。その夜は互いの傷を見せ合いながら妙に意気投合した2人はことに及ぼうとするものの、どこからともなく飛んできた矢じりが全てのムードを台無しにする。矢を放ったのは、迷彩服に身を包んだ謎の男ロイ(J・K・シモンズ)だった。

 同じ日の住人となった孤独な青年の日常に、ある日不意にサラがやって来る。奇妙な光を放つ洞窟に入った瞬間、2人は11月9日の朝に戻る。自分自身の意識だけが時空を移動し、過去や未来の自分の身体にその意識が乗り移るといういわゆる「タイムリープ」ものと云えば近年ではアカデミー短編賞を受賞した『隔たる世界の2人』が真っ先に思い浮かぶし、ビル・マーレイ×ハロルド・レイミス『恋はデジャ・ブ』などもあったが、構造的には押井守の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』とも相通じる部分がある。毎日同じ11月9日の繰り返しだとしても、2人の心には楽しかった11月9日が記憶となり、堆積して行く。3年間同じ11月9日に戻るとすればそれは普通の人の3年間と同じ意味合いを持つとわかった時から、2人なら永遠に同じ「今日」が続いても良いとナイルズは考えるが、サラはそんな「胡蝶の夢」を良しとはしないのだ。中盤のサラの一時的な退場を経て、思えば真にトリッキーな登場をしたはずのナイルズが一気に普通の青年の恋の病となる中盤の脚本はもう一波乱あっても良かったし、同じくトリッキーな登場をしたはずのロイの終盤の妙な大人しさにも違和感が拭えない。だが「ボーイ・ミーツ・ガール」な出会いを果たした2人にとっては、この世界の欠損を乗り越えんとすることが2人にとって成長となるのだし、見事な思考実験だったとも言えるだろう。
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