hubaco

83歳のやさしいスパイのhubacoのレビュー・感想・評価

83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
4.0
高齢者施設で家族が虐待されているのでは?という依頼を受け、83歳のセルヒオさんが入所者を装い潜入捜査を行うドキュメンタリー。手法はユニークだけど老後の人生や高齢者介護といった問題の捉え方は極めて現実的。非常に考えさせられた。

セルヒオさんが耳を傾けてくれる中で他の老人たちが思いを露にしながら心をほぐしていくけど、じゃあなぜ彼は混乱した相手の話もあんなに優しく聞けるのか。結局のところ彼は入所者ではなく、帰る家があって愛する子や孫がいつでも待っていてくれるからでは?

余裕がなければ優しくなんてできない。少しでも健康で余力のあるひとがよりつらい立場のひとにできる範囲でも力を貸す。それが当たり前の社会にならなければ超高齢社会になんて対処できない。

すばらしい詩を詠む入所者の女性が出てくる。彼女も優しかったけど決して幸せではなかった。人間にとって孤独がいちばんつらいというアフタートークで聞いた言葉の意味を考える。

高齢者施設の現状を追うことは眼目でないので職員はあまり映らない。ただ、セルヒオさんに恋してしまったという入所者の女性の話を聞くスタッフの受け答えはさりげないながらすごいと思った。あれがプロの対応。
hubaco

hubaco