雑記猫

ナイトメア・アリーの雑記猫のレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
3.7
 才気あふれる青年の成功と転落が丁寧な脚本で描かれている一方で、ストーリー展開が淡々として起伏が少ないため、全体としては「よく出来ているけれど退屈」な作品になっている印象。特に序盤は主人公の青年・スタンが転がり込んだカーニバルに徐々に馴染んでいく様が特に大きなイベントもなくかなりの時間続くので随分と冗長に感じる。個人的にはこの部分をもっと圧縮してテンポよく話を進めてくれた方が好みだったのだが、一方で1940年代頃の見世物小屋の陰鬱で怪しげな空気の演出が非常にキマっているパートであることも確かなので、この空気感に波長が合う人にとっては楽しいパートであろうとも推察される。要するに刺さる人には刺さる作品ということなのだろう。

 作品の冗長さには不満があるものの、中盤以降のスタンが詐欺師まがいの手法で金を稼ぎながら着々と破滅への積石を重ねていき、クライマックスでこれがガラガラと崩れていく展開は非常にスリリングだ。さらに、物語の進展に伴って、大きく自身の社会的地位を変遷させていった主人公が、ラストでさながらループのようにその身を転落させていく非常に寓話的な話運びはとても美しく、やはりこういった点を踏まえると作品としての完成度は高いと評価すべきだろう。

 俳優陣の中では主演のブラッドリー・クーパーの理知的でかつ胡散臭い興行師としての立ちふるまいと、ケイト・ブランシェットの人の内面を覗き込むような妖艶な喋りが特に印象的。レベルの高い俳優陣が揃うと、会話劇のみでグイグイと観客を引き込むことができるが、本作もそういった側面の強い作品とも言えるだろう。
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