吉太郎

ファーザーの吉太郎のレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.0
自分が誰かをサポートする立場になった時、もう一度これを見ようと思う。誰も何も、悪いわけじゃない。

全ての人に関係がある映画。全員がどこかで覚悟しなければいけない。アンソニー目線で描かれていることで、当事者がどれだけ混乱しているのか、どれだけ苦しいかが分かる。見ていて、え、いま何の話?いつの話?ってこっちが思うほどに。同時に、その家族の苦しみもすごくリアルに表現されているのだと思う。父を精神的に失っていくことの怖さ、悔しさ、信じられないという想いが伝わってきた。普段は力強くたくましい女性であるアンが父の目に自分が映っていないことに気づき震えながら泣く姿、自分が壊れていくことを認めたくない、でもどうしようもない恐怖に襲われるアンソニーの姿は見ていて本当に辛くて、感動とかそういう感情というより、直視できない。

精神的であっても身体的であっても、蝕まれていく、というのは本当に恐ろしいよね。
でも誰しもいつでもその可能性はある。老い、事故、病気。本人も周りも、何かに蝕まれてその人の本質を忘れてしまったりするのだろうか。アンソニーのあのお茶目なタップダンス姿を、忘れてしまいたくない。

特に老いは、生きていれば平等に全ての人に訪れるもの。全ての人がアンソニーになり得るし、アンになり得る。自分の親も、自分も。

人間だから、家族だから、”ホームに入れればいい、ホームに入ればいい”だけでは終わらないことがある。情、思い出、プライド、過去の時間。いろんな人生がある中で何が正解かはない。正解だったとか間違いだったとかの次元ではないと思う。ホームにはいるのも、家で一緒に過ごすのも、ヘルパーさんにきてもらうのも、選択肢の一つ。家族分の選択肢がある。
祖母の姉がその場所で亡くなったけど、祖母は、会うたびに『幸せだった思うの』と言っている。もしそれが、“そう思いたい“であったとしても、それでいいと思う。

『全ての葉を失っていくようだ』
多かれ少なかれ、終えていくとき自分もこういう恐怖を感じるのかな。落ちる葉に悲劇を覚えながらも、そんな言葉選びができるリトル•ダディが根をはった土に手を添えたい。
吉太郎

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