ゆずこしょう

ファーザーのゆずこしょうのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.8
相手を責める、自分を責める、混乱でどうしようもない認知症当事者の世界がわかる。
人間の脳、記憶って不思議。
都合良く覚えていたり悪いと忘れる。
大切な記憶はすぐ側にあったり、習慣化されたものは覚えていて難なくこなせられるけど、一つでもその習慣に歪みが生じると大混乱。状況変化の対応が困難になる。
性格もあるけど、水頭症だったり数ある多くの病状によって易怒性になる。
優しかったのにと周囲の人間はショックで堪らない。
何より家族間の信頼や社会環境も大きく変えてしまうことが恐ろしい。
でも至って本人は真剣。
老いること、記憶がなくなっていくことは人間がこの先寿命を迎えるまで必ず起きるもの。
互いにわかり合うのは難しい。

専門職の介護人も心はある。暴言や暴力、理不尽な言葉を投げかけられて(認知症だからしょうがないか)と毎回やり切れる訳ではない。
それでも助けを必要としている人の感謝の言葉があると救われる時もある。
同時に心の強さは人の数だけあることも忘れてはいけない。

当事者だって、怒りたくて怒ってるわけではない。脳の障害が当人を苦しめている。
記憶障害によって知らない人となってしまった親しい人、場所、物、時系列も狂った記憶と目まぐるしく変わる恐ろしい世界にたった一人でいる。

たった1人の当事者だろうがその1人に多くの人の支援が必要であることは、早いうちから知っておくべきである。