これぞドキュメンタリーとも言うべき密度だった。
シティ(インドネシア人)
ドアン(ベトナム人)
が巧妙に殺人犯とされてしまう手口。
2人の国籍が違うことによる裁判結果の相違。
マレーシアの捜査の杜撰さ。
それを追求する弁護団と事件を追い続ける現地の1人の記者。
弁護団、記者共に事件の日だけを追っているのではなく、当日まで、どういった人脈が形成されたのか、どういう手口で2人を誘ったのか、ブラックボックスとも言える北朝鮮との戦いの記録が綿密に追われている。
金正男はVXを目の粘膜に塗られ死亡したのだが、その行為が殺人行為であるということはおろか、自分の手に塗られている物質がなんなのか、そもそも事件日まで2人の面識すらなかった、金正男ということすら知らなかったということが驚愕であった。
犯行までは、ターゲットの目を背後からベビーオイルを塗った手で追おうというイタズラ動画を実際にとっており、金正男事件当日も同じイタズラ動画だと思っていたのは不思議ではなかった。
夜の街を利用する客が使うタクシー運転手から人脈を得る所や、VXは手のひらであれば直後に除染すれば良いということ、イタズラと殺害方法が全く同じであったこと、北朝鮮側の犯行に関わった人物が犯行後、着替えをしていた事等々、小さな事実を積み重ねていく展開に痺れた。
SNSを頻繁に利用し、有名になりたいと思っている若者を狙った手口。
SNSを頻繁に更新していたために結果として、弁護団の反証材料が比較的簡単に手に入ったこと、SNSの投稿に北朝鮮側の人間が映り混んでいたことが興味深かった。
SNSのリテラシーが低い事が最悪の事態を引き起こしたが、少し助かった面でもあると思った。
裁判では、イタズラとの指摘について、笑えないからそうとは言えない、とう場面があったが、「笑える」という非常に主観的な判断に審理の杜撰さが垣間見えた。
一般人が国際政治なんか知っててどうするの?と思うかもしれないけど、知っているのと、知らないのとでは大違いであることがわかったし、国際政治は直接自分の命に関係することもあるということが良くわかった。
日本でも起こりうるなとゾッとした。