とらキチ

アシスタントのとらキチのレビュー・感想・評価

アシスタント(2019年製作の映画)
4.5
たしかにソレは“彼女”の目の前で起きた訳ではない、でも間違いなく“何か”が起こっていて、周りの誰もがソレを見て見ぬふりをしている…
鑑賞後改めてハッとさせられたのが、今作のジャケ写でも採用されているワンショットのカット。“彼女”のアゴの下に横線のラインが入っており、コレはいわゆる「首チョンパ」と言って“晒し首”“生首”を連想させてしまう、映像撮影を習う時に真っ先に撮ってはいけないタブーと教えられる撮り方。このライン、実際の劇中ではオフィスのアクリル板の上端なんだけど、でも今作でのこのシーンでのこのカットに於いては、「いくらでも代わりはいて、いつでもすぐにクビになってしまう」という“彼女”の危うい立場、境遇を象徴していて、計算されたものだという事がよくわかる実に秀逸なショット。
また、劇中“彼女”は、その名前を呼ばれる事は決してなく、“彼女”の名が“ジェーン”である事がエンドクレジットで初めてわかるのだが、その“ジェーン”という名も実は身元不明の女性や匿名希望者に用いられる“ジェーン・ドゥ”から敢えて取られていて、今作のテーマがいかに業界関係なく普遍的なものであるかが伝わってくる。
激しい競争を勝ち抜いて飛び込んだ、“夢”を生み出すはずの華やかな業界に蔓延る差別や抑圧、搾取。そんな日常と決して表には出てこない“彼女”達の悲鳴や嘆きを静かに描きだした、実に強いメッセージが込められた秀作。最後の最後、エンドロールまでちゃんと観て!
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