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精神0のKのネタバレレビュー・内容・結末

精神0(2020年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

精神を観た時は、僕はまだ学生だったので
患者を抱え込みすぎていて、きっと山本先生が閉業したら患者達が露頭に迷うのではないかと批判的でした。

ただ一方で今は、患者と治療者の間に信頼関係がある時、離別はどんな形であれ、しみじみと辛いものなのだと思えます。
精神科臨床においては、その殆どが目に見えない格闘戦のようなものです。カメラが回っているのに、あれだけ火花を散らして「先生にまだ会いたい」とぶつかれるのは、2人にしか分からない信頼関係があるからなのでしょうね。

ハッとさせられたシーンとしては、山本先生の講演シーンで脱臼の話をされましたね。
「脱臼した時うつっぽくなった。なのに子どもが来て"ご飯を食べろ""運動をしろ"と励ます。そんな事は頭では分かってる。その時患者の事を思い出した。何年もそう言われ続けて、ヤケを起こさずに生きてる。でも誰も褒めてくれないんだよ」
こんな旨のお話。
仰る通りだと思いました。多分誰しもが今の時期体感している気がします。

コロナで自粛なり、テレワークなりで自宅に居る時間が増えて、緊急事態宣言が解かれて出社した時、日常が戻ってくると同時に、身体の重さや息苦しさを感じなかった人はいないのではないかと。
引きこもりが増加の一途を辿る日本において、「外に出ろ」「働け」と言われても、当事者達の腰は我々が想像するよりもずっと重いものなのだと思います。


さて、山本先生はしっかりと患者達を後進に引き継ぎ余生を奥さんと過ごします。

奥さんは今作登場時から、認知症を患っているようで、ヘルパーさんが家に迎えに来るシーンもありましたね。
前作の時はハキハキされていただけに、年の流れを痛感しました。
でも、いちいち芳子さんの言動が僭越ながら可愛らしく映っており、他の観客同様に切なさと笑みが溢れました。

山本先生も、臨床では落ち着いて手際良い佇まいなのに、家では「お茶をどうしようか、アクエリアスでいいか」、「マッチ忘れた」と決して生活全般がしっかりしているわけではないご様子。今まで奥さんが支え続けてきたであろう生活力が垣間見られます。勿論山本先生のご高齢も影響してるかとは思いますが。終盤のピンマイクが拾う先生の吐息が、何より老いを象徴しているように聴こえました。
全然思い通りに屈めないし、ちょっとの段差でも一苦労。まるでこちらも82歳になったかのようでした。
そして同時に、その遅さをまどろっこしく感じる自分も感じました。これが急かしたくなる気持ちなのかも知れませんね。僕は思い通りに屈めるし、段差も楽々下れるから、その重さを体験はまだ出来ません。想像して、思いを馳せることしかできません。でもその想像力が、臨床においては最も大事な事だと、改めて学べました。

臨床でも共生をテーマに生きてきた山本先生、これからは奥さんと共生していくのでしょう。
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