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アンダードッグ 前編のEDDIEのレビュー・感想・評価

アンダードッグ 前編(2020年製作の映画)
4.5
噛ませ犬のパンチドランカーはなぜボクシングに執着するのか。全盛期を過ぎたファイターは見えない闇の中を猛進し色物扱いのお笑い芸人の本気に圧倒される。迸る熱量と圧巻の展開の連続に後編への期待値が更に上昇。持たざる者への人間讃歌。

『百円の恋』の武正晴監督の新たなボクシング映画。いやはや、またもや凄い熱量の映画を撮りなさったな。
本当に『ホテルローヤル』と同じ監督ですか?笑

やはり特筆すべきは迫力あるボクシングの試合の演出と卓越したヒューマンドラマ。
今回は『百円の恋』同様に原作・脚本を足立紳が担当。
本作『アンダードッグ』に関しては前編131分、後編145分の濃厚さ。通しで観ると4時間越えの超大作ですが、これは時間が許すならば一気に観ることをオススメします。
それにしても人間ドラマの描き方が秀逸。別に泣かせにきてるとかではないんですよね。映画を観ている中で、登場人物の人生を追体験していくことで、クライマックスでは自然に心の奥底にひた隠した感情が一気に込み上げてくる感覚です。

特に前編では主人公の末永晃役の森山未來だけでなく、お笑い芸人でボクサーに挑戦した宮木瞬役の勝地涼が凄まじいんです。
我々はテレビの中で活躍するお笑い芸人をある意味色眼鏡で見ている部分があるかと思います。
当然お笑いに生きるということで、人を笑わせることに全力投球しているのが普通だと思わせられている節があります。
ただ、彼らも同じ普通の人間。お笑い芸人も一つの職業であって、彼らお笑い芸人にも不満やストレスはもちろん溜まります。

そんなお笑い芸人の心情を上手く表現していたのが勝地涼。そして、宮木が住むマンションで日夜パーティが開かれている模様を長回しで映し出すシーンは、彼がオンとオフを切り替えられずフラストレーションが溜まる様子が台詞なく丁寧に描かれていたのが好印象でした。

昔「ガチンコファイトクラブ」っていう素人がプロボクサーに指導してもらってぶつかり合いながら成長していくバラエティ番組がありました。TOKIOがMC務めていた番組ですね。
あれもすべては台本ありきなのは明らかなのですが、本作でもボクシングに番組の企画で挑戦する宮木と台本に従い構成されるヤラセ具合が描かれていましたが、そこに宮木のバックグラウンドも相まって世間の評判とは対照的に本気でボクシングに打ち込む彼の姿がありました。
しかもそこのトレーナーが竹原慎二であり、直接指導するのが実際にバラエティの企画でプロボクサーのライセンスを取得したお笑い芸人ロバートの山本博というキャスティングが熱いんですよ。演技もなかなか良かった。

前編は主人公の晃がなぜ勝てないボクシングに執着するのか、その理由を鑑賞者は探りながら観ていくんですが、途中から完全に宮木の世界にどっぷりハマってしまうんですよね。
もうクライマックスの晃vs宮木は心が滾り、気付けば宮木を応援している自分がいましたし、もう途中から涙で前が見えなくなっていました。

前編は主要人物の背景描写を演出で語り、晃と北村匠海演じる大村龍太らの不可思議な関係性、ボクサーとしてもう後がない晃とお笑いと現実の狭間でもがき苦しむ宮木の人間ドラマを丁寧に描いています。
ここまでの熱さを映画から感じたのは昨年の『宮本から君へ』を彷彿とさせます。
後編は晃と龍太のドラマが中心になりますが、それはまた後編のレビューにて。

※2020年劇場鑑賞148本目
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