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日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人のkaiのレビュー・感想・評価

4.5
すでに80歳を超える高齢者となった彼女、彼らの表情からは時代に翻弄された「侵略戦争の爪痕」を感じずにはいられませんでした。

ここまで人間は献身的になれるのか、と感嘆したのは、フィリピン残留邦人の日本国籍取得のために奔走する河合弘之弁護士と、同氏が代表理事と務めるフィリピン日系人リーガルサポートセンターのスタッフたちの姿です。撮影時の時点での調査で残留2世の邦人は1069人。しかし、父親の名前すら曖昧になってしまっている場合は少なくなく、国籍取得の法的な手続きを進めることは容易ではありません。

 戦争という国策が生んだ悲劇。映像の中で東南アジア研究を専門とする清泉女子大の大野俊教授は「本来は政府が支援すべき」と指摘しています。当事者たちはすでに高齢になっており河合弁護士も、政府が望んでいるのは「問題の解決ではなく問題の消滅ではないか」と懸念しています。

 だからといって小原監督では「政府=悪」という単純な図式では作品を撮っていません。70年代には中国残留孤児の存在をマスメディアが大々的に取り上げることにより、政府も調査に着手し、帰国が実現しました。フィリピンの残留邦人の問題も志のある政治家が支援に乗り出しています。

 まずは私たちがこの悲劇を知り、そして共有すること。残された時間で前に薦めるには、そこから始めるしかないように思いました。
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