ブラックユーモアホフマン

ヴァスト・オブ・ナイトのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

ヴァスト・オブ・ナイト(2019年製作の映画)
4.2
この映画、一番怖いのは監督のアンドリュー・パターソンって人物が調べてみても本作以外のフィルモグラフィが全く無いことで、しかも脚本家/プロデューサーとしてはジェームズ・モンタギューという別名義を使っていて……何者なんだこの人。
(この記事に詳しく書いてありました→ http://indietokyo.com/?p=13614)

俳優もスタッフも全員無名ながら、このクオリティ。映画自体の正体不明感が余計に怖い。まるで他の世界線の映画界からたまたまこちらの世界に紛れ込んでしまったかのような。

ずっとセリフの応酬で、その俳優の声が作るリズムと、長回しで見せるところと細かいカッティングで見せるところのメリハリある編集のリズムとで引き込んでいく。音楽もまた独特で面白い。

想起したのはジョーダン・ピールやシャマラン、J.J.エイブラムス。当然スピルバーグのアレ。ということは『宇宙人ポール』も。あと「ストレンジャー・シングス」。
レトロなアメリカを舞台にしたサスペンスとしては、フィンチャーの『ゾディアック』や「マインドハンター」。
他に中山市朗の「山の牧場」や、あとマーベルの『ワンダヴィジョン』っぽいとも思った。

「トワイライト・ゾーン」的な番組「パラドックス・シアター」の中のとある一話、、、のように始まるがカメラが白黒の古風なドラマの世界に入ると、カラーの現代的なカメラワークに変わる。この虚構の町の住人たちは、俳優が演じているのか、はたまた自分たちがドラマの登場人物だという自覚がないのか……。
とすると「空に何かいる」というのは、このドラマの視聴者のことなのではないかという気もしてくる。『トゥルーマン・ショー』『フリー・ガイ』のような……。

ラジオというモチーフでこのテーマとなると、オーソン・ウェルズの出世作である「宇宙戦争」のラジオドラマを想起もする。
語りだけだからこそ観客の想像力を掻き立て不気味にさせるという狙いは高橋洋『霊的ボリシェヴィキ』にも通ずるかもしれない。

言葉だけで不安感を煽っていくからこそ、最後の展開はもう一捻り欲しかった。ちょっとそのまんま過ぎる。

あとトロンボーンのくだりとか、電球がチラついてるのとか、そういう細かい描写も後半にかけてもう少し綺麗に回収してくれたら良かったのにな、とは思ったけど超ツボな映画ではありました。

惜しむらくは配信限定なこと。劇場で観てみたかったものだ……。

【一番好きなシーン】
ビリーの電話からエベレットに指令を受けてフェイが走り出すところ。