朝田

二重のまち/交代地のうたを編むの朝田のレビュー・感想・評価

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驚くべき傑作。震災を体験していない男女が被災地へ赴き震災の当事者の方々と対話し、それぞれ自分の言葉でその体験を語り繋ごうとする様の記録。男女それぞれがカメラに向かって記憶を辿々しい口調で語る様が被災地を漂う男女の姿と交互に繋がれていく。「息の跡」では小森監督が聞き手となり、「空に聞く」では被写体の女性が聞き手となり、ついに今作では観客一人一人が被写体の話の聞き手となる。ここまで複雑な語り口がドキュメンタリーで可能なのかと驚かされた。なおかつ、主役となる男女が直面する「他者に何かを伝える時に生じる噛み合わなさ」という問題が、あらゆるドキュメンタリーに関する「正しく情報を伝えられているのか?」という問題と接続されて見えてくる。小森はるか自身の批評的な視点も導入されていて、この誠実さにひたすら感動してしまう。それほどフェアな視点を厳格に保っているからこそ、凝った形式のドキュメンタリーでありながら最終的には、どこか青春映画のような普遍性を獲得している。単純にドキュメンタリーという事を抜きにしても、現在の時間軸とかつての時間軸が無軌道に繋がれる編集はスリリングだし、強度のある画面が詰まっている(詩を被災者たちの前で語りかけるショットの美しさ、しかも「ふるさと」が奇跡のように鳴り響く)。劇映画と肩を並べられる作品だと思う。過去作以上に素晴らしかった。
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