たく

母とわたしの3日間のたくのレビュー・感想・評価

母とわたしの3日間(2023年製作の映画)
3.7
死後の世界から娘を見守りに来た母親の魂の3日間を描くファンタジー。泣けるとの評判で確かに周囲の観客はすすり泣いてたけど、自分的にはちょっとヌルかった。タイトルからてっきり娘視点かと思ったら、まさかの母親視点なのが意外。頻出する食べ物のシーンがみんな美味しそうで、そっちの路線でも行けそうな作品。終盤のフラッシュバック的な演出が泣かせる。キム・ヘスクは韓国で「国民の母」として親しまれてるらしく、さすが母親役がハマってた。案内人役のカン・ギヨンは「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」に出てたね。

亡くなってから3年経ったポクチャが天国で3日間の休暇を与えられ、地上で暮らす娘のチンジュの様子を見に来る。ここでタブレットを使いながらルールを説明する案内人の話がすんなり入ってこなかったけど、とにかく「記憶が重要」というのが本作の軸になってた感じ。アメリカのUCLA(ウクライナに引っ掛けたネタ)で教授をしてたはずのチンジュが、なぜかポクチャが営んでた故郷の食堂を一人で切り盛りしてて、その原因となってる彼女の心のわだかまりを過去の「記憶」を辿りながら解き明かしていく展開。

本作の魅力の一つがチンジュの作る数々の手料理で、キムチを始めとして映画に出てくる韓国料理がこんな美味しそうに見えたのは初めてかも。彼女が手掛ける料理のレシピは全て母親との「記憶」から掘り起こしてたね。貧困から娘を手放さざるを得なかった母に対する屈折した思いと、母の死に目に会えなかった悔恨がチンジュを精神的に追い詰めたことが分かってくるのが観てて辛かった。

霊的な存在が愛する人と接触できないもどかしさという「ゴースト/ニューヨークの幻」あたりから始まるプロットに、料理を通して親子の心のわだかまりを解くための記憶を辿り直すのは「花椒の味」を思い出す。タブレットで思い出の画像が一枚ずつ消えていく演出はずるいくらいに泣かせる演出。死してもなお娘のために自分を犠牲にする母親の姿には「ステラ・ダラス」の変奏を感じた。
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