ゆず

みんなのヴァカンスのゆずのレビュー・感想・評価

みんなのヴァカンス(2020年製作の映画)
4.5
ものすごく良かった

シェリフが劇中で着るTシャツの中には、映画をモチーフにしたものが3枚ある。
 1枚目は『俺たちダンクシューター』(08)というハリウッドのコメディ映画のTシャツ。これはシェリフの思春期的な心情や喜劇的な部分を象徴している。そして『おおかみこどもの雨と雪』のTシャツを着るのは、彼が若い母親であるエレナとその赤ん坊と親しくなり、家族のありかたや子供についていろいろと考え始めている時期。そうした繊細な感情を抱き始めたシェリフがあの映画のTシャツを着ているというのは、視覚的にも美しいと思った。子供時代を強調するような印象を与える。
 3枚目はジム・ジャームッシュの『ゴースト・ドッグ』(99)。これを着ているのは、シェリフが、エレナの前でも自信を持ち堂々としていようと決意したとき。カリスマ性のある俳優フォレスト・ウィテカー主演のあの映画のシャツを着ることが、シェリフに自信を与えたとも言える。こんなふうに、3枚とも、それぞれに重要な意味を持ったTシャツなんです。
 多くの場面を長回しとロングショットで撮っている。そうすることで、その瞬間、そこで起きたことをそのままに映しとることができるから。人物と物語だけではなく、木々のこずえの揺れ、後方の山、キャンプ場に来ている人たち、遊んでいる子どもたち、こうした全てを見ることができる。
 トラブルや自然の光が変わってしまった時に幸福感を感じる。書かれたままに撮影していくのではなく、やはり驚きが必要で、おそらく完成した映画を見る観客も、それによって幸せになるのだと思う
 フェリックスとシェリフがエドゥアールの車に相乗りするシーンは「嵐のように雨が降っていて、予定が全く変わってしまったが、最終的にはとてもいいシーンになった」
川のほとりでフェリックスがアルマに電話するシーンは「彼女と楽しそうに話していた時は日の光が明るく輝いていたが、フェリックスの気持ちが徐々に暗くなってくると、周囲もブルーがかって暗くなってきた。あれは奇跡。幸せな偶然だった」
ゆず

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