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僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46の燦のレビュー・感想・評価

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アイドルを推すということを見つめ直したくなる作品で、アイドル産業が孕む暴力性について考えさせられた。

1:彼女たちの社会的・商業的な成功を望むことは、彼女たちが幸せな人生を送ることと矛盾する場合がある。笑顔を失っていく平手さんを見ていて強く感じた。渡邉理佐さんの「(平手さんは)自分の幸せのために生きてほしい」という言葉が印象的だった。

2:(運営側がつくりだした?)彼女たちのステージ裏の姿や心情を知りたいという私たちの欲望は暴力的だ。泣いて苦悩してうずくまっている姿や楽屋で今後のグループのあり方について話している姿を隠し撮りされることを彼女たちは望んだだろうか。もちろん舞台裏での苦しさを見せるために映画の中に入れることを望んだのかもしれない。それでも、守られるべき彼女たちの秘密が、無機質なカメラに記録され続けることを肯定すべきではないと思う。だからこそ、「いまは言わない」「ここでは言わない」と自らの秘密を守った平手さんや小林さんは人間としてとても魅力的だと感じた。ときに沈黙しながら訥々と語る小林さんの誠実さに心を動かされた。

アイドルを推すという行為はあまりにも身勝手な場合がある。心身をともに極限の状態まで追い込んで「支配なんてされない」と叫ぶことを彼女たちに期待しながら、バラエティで大人が期待するような振る舞いをしない彼女たちを非難する。平手さんも他のメンバーもみんなそれぞれの立場で重圧を感じて苦しんでいるのに無責任に同じ質のパフォーマンスを期待する。誰かが知られることを望まなかったかもしれない真実を、知りたいと思い、舞台裏の映像をながめる。

アイドルを推すということ、好きでいることは彼女たちの幸せな人生を願うこととときに矛盾し、彼女たちの若い時間を消費することに終始してしまう。アイドルへの愛は多くの場合いびつかつ不完全なもので、運営やファンは彼女たちの人生に無責任なのだと実感した。

※「黒い羊」のパフォーマンスが平手さんの脱退と重ねられていたが、そこでの平手さんは欅坂の「避雷針」に見えた。
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