ガンギマリポテト

ナイト・ウォッチャーのガンギマリポテトのレビュー・感想・評価

ナイト・ウォッチャー(2020年製作の映画)
5.0
【個人研究:映画とASD/ADHD⑥】

プロデュースも兼任した主演:タイ・シェリダンの演技に驚嘆。今まで実写映画で見てきたASDとしては1番リアルかも。「目を合わせるのが難しい」特性を映像作品で演出しようとすると俳優の視線の向け方が難しく、編集の繋がりが成り立たなくなったり、場合によっては視覚障害者のように見えてしまったりするんだけど、ここも違和感ないのが凄い。歴代の俳優たちのわざとらしくコミカルで大袈裟な“自閉症”演技から脱却していて、自然体なASDを演じることに成功している。非当事者がやる“外野から見た自閉症”表象特有のイヤな感じを感じない。こんな映画は初めて。

主人公は対人コミュニケーションを学ぶためにホテルの部屋を盗撮している、という点で倫理的には到底共感し得ない人物なんだけど、本作は発達障害を持つ人が「社会に合わせるために、定型発達者には求めらない努力をしなくてはいけない」苦労を物語のメインに据えた、恐らくは初めての劇場映画だと思う。かく言う僕自身、鏡の前で人や映画の真似して話す練習はよくやるし、ここは共感し過ぎて痛々しかった。大抵の場合この努力は空回りするし、所詮は“真似”に過ぎないので、どう足掻いても社会とのすれ違いは起きてしまう。この映画はそんな悲劇的な側面を誠実に描いている。胸糞の悪い映画だけど(最後の夢のシーンが辛過ぎた)、よくある「数学と記憶力に優れた、理解されない天才or聖人」ステレオタイプのASD表象より遥かに好感を持てた。