おふとん

空白のおふとんのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.2
娘を亡くした父親の行き場の無い怒りが暴走していく。
スーパーの店長が万引きをしようとしていた女子中学生が追いかけると、その中学生が轢かれて死んでしまう、という何とも絶望的なシーンでのタイトルバックがとても胸糞悪い。
同じ監督の「ヒメアノール」のオープニングを思い出しました。

予告編では暴走する父親VSスーパーの店長のような見せ方でしたが、大分印象は違って、まぁずっと地獄のような描写が続くんですが全体的な印象としては思ったよりも静かな映画でした。

この作品、マスゴミやネット掲示板以外には明確に悪と言えるような存在がいなくて感情の持っていきどころがわかんなくなるんですよね。
その最たる存在は松坂桃李演じるスーパーの店長で、もう1人の主人公でありながらも感情が読み取りづらく、理解しづらい。
印象に残るシーンはずっと表面上は理性的にふるまっていた彼が、弁当屋さんに電話でブチ切れるシーンですね。
あそこは最高でした。
まぁそのあと我に返って謝るんですけど…。
それが、自己肯定感が低くて自己主張が出来ない若者の姿って感じで、わかりすぎて涙が出ました。

というわけで、もうずっとただただしんどい映画なんですが、それでも終盤にはほんの少しの救いがあって良かったです。
冷静に考えると何もかも手遅れなんですが、どんな状態でも折り合いをつけて生きていくしか無いというしんどいけど泣ける映画でした。

他人はどこまでいっても他人で、その空白は自分で埋めるしかなく、また他人を赦すことと寛容さが大事だということでしょうか。

面白いのはこの映画、最初は娘の死の真相は…?みたいなストーリーから始まるんですが、段々と横道に逸れていって結局なんだかよくわかんないまま終わるんですよね。
正しいか正しくないか、真実が何かということは結局のところどうでもいい、ということ。

こう書くと確かに和製「スリー・ビルボード」のよう。

この作品でもう1人印象に残るのは寺島しのぶ演じるパートのおばさん。
結局正しさの押し付けでは誰も幸せにならないし、それは結局正しく無さに対する不寛容なんですよね。
あとは、恣意的に悪意のある切り取りを行うメディアと、正しさを盾にネットリンチや嫌がらせを行う顔の見えない一般大衆の醜悪さ。

見るのにかなり体力を要する映画ですが、今年の邦画では暫定ベスト、間違いなく見るべき作品です。
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