前歯カケル

空白の前歯カケルのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
2.8
吉田恵輔 監督 空白

添田充(古田新太)は突如、一人娘を不慮の交通事故により失います。

事故の引き金となったのは、娘である花音(伊東蒼)がスーパーで万引きと疑わしき行為をしていたところ、現行犯としてスーパーの店長である青柳直人(松坂桃李)が引き留めたことにより、動転した花音がスーパーから逃げ、道路に飛び出したことによるものでした。

添田充は気性の荒い一匹狼のような人物ですので、たとえ自分が間違っていたかもしれないという疑念が湧いたとしても、自分の信念は決して曲げないといった性格のため

その結果、添田を中心に取り巻く環境や関係人物を巻き込み物語が進展してゆくヒューマンサスペンスです。



※以下、ネタバレ含みます。

中盤〜終盤に差し掛かるあたりまでは一貫して重く、濃い内容でボディに攻撃を喰らい続けている息苦しさを感じました。

映画始まりの衝撃を忘れさすまいと傷口の膿をずっとほじくり返すような…。

ひとつ、ひとつの細かいシーンや人間的な描写にほとほと嫌気が指します。

誰一人として救いもないまま、ここまで耐えた先に得られるものがあるのだろうかと諦めに近い感情が湧き始めるころ

たった一言、

「みんなどうやって、折り合いつけるんだろうな」

と添田がポッと放つ一言にグッと心が掴まれました。

生きているうえで、不条理で納得のできないことばかりと感じるとき、誰しも何のために生きていて自分の信じてきたものを見失うことがあると思います。
そういったやりきれない、どうしようもない感情の人間臭さがたまらなく響く映画でした。

劇中、ほとんど音楽はありませんが、花音の絵を見て、充の中に湧く澄んだ感情を表現したような音楽が流れると共にエンドロールに入っていく演出が素晴らしいと感じました。
最後の最後にやっと見せてもらえた救いだな、と(笑)


オマケ
古田新太さんすごい大好きなんですけど、醸し出す渋さと纏う歴史がいつ見ても土偶と瓜二つなんよ
前歯カケル

前歯カケル