すーとらまん

空白のすーとらまんのネタバレレビュー・内容・結末

空白(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

吉田恵輔監督は、「ヒメアノール」ぐらいからの作品は必ず鑑賞していて、どの作品も好きで、好きな監督の一人だ。
日常のパートをコメディぽく撮り、ほんの些細なボタンのかけ違いなどから地獄に発展していくイメージで今作は、その地獄パートだけで展開する感じで、吉田監督っぽくないと言えば無いし、吉田監督っぽいと言えばぽい感じ。
吉田監督の描く地獄の感じが分かる人は分かると思うが、それが2時間続く訳だから、この映画がいかに辛いか分かるはず。

まず衝撃的なのが事故のシーン。耐性のない苦手な人は観ない方が良いと思うレベルで、フロントガラスにこびり付いた髪の毛や、トラックに引きづられるシーンは直接見せる訳じゃないないが、かなりショッキング。
だが、その衝撃が映画には効果的で、ただ「映画内で人が事故で死にました」ってだけじゃなく人が交通事故で死ぬってこういう事だよなと、もう取り返しの付かない悲惨な出来事と認識でき、その後の各登場人物の行動に説得力が出ていたと思う。


この映画の主要登場人物たちは、上手くキャラ付けされていて
攻撃的な自分の主張を一方的に押し付けるタイプ
善意な自分の主張を一方的に押し付けるタイプ
自分の主張を言えないタイプ
そもそも他者と関わろうとしないタイプ
など、似ている様で全然違うし、正反対の様で似たいたりと
登場人物同士を比べて観ると色々見えてきそうだ。


「空白」と言うタイトルの意味を考えた時、この映画には空白が沢山ある。
娘をなくしたり、事故の原因を作ったりした自分の心の空白、生きていた時の娘の事を何も分かってなかった娘との空白、万引きしたのか?性的な悪戯があったのか?映画では描かれない当事者にしか分からない空白。何の事を指しているのか。

個人的には、他者の空白って事だと思った。
自分以外のことなんて親子だろうが、夫婦だろうが。友達だろうがほんの一部しか分からずほとんどが空白だと思う。その空白を埋める共感性や想像力がコミュニケーションの一歩目で大切な事だと思う。
その想像力を間違った形で働かす周りの人も出てきて万引きしたんじゃないかとか、悪戯したんじゃないか、この人物はこんな人物じゃないかと、ワイドショーなどが騒ぐが、これは共感性のない想像力だと思う。

映画終盤、充さんが変わろうとしだしたあたりからが凄く好きで
娘が好きだった絵を描いたりマンガ読んだりどうにか折り合い付けよう、折り合いの付け方を見つけようとする姿がグッとくるのに笑えたり。藤原季節演じる人物が充さんをほっとけないのも、きっと映画には描かれない充さんの良さってのも想像させるし、特にラストの娘と同じ空の雲の絵を描いていて、しかも娘の絵には船、充さんの絵には学校が書かれているのが分かるシーンは映画でしかできない表現で感動したし、もうどうにもできない悲しすぎるが、なんか希望がある気がする完璧なラストだったと思う。

気になった点をいくつか。
マスコミの描き方が誇張しすぎていて現実を描いているのに嘘っぽく見えるのが残念。
寺島しのぶが演じるキャラが、ボランティアに熱心で、ビーガンで、若い年下の男に恋心を抱く独身の女性ってのが偏見が入ってる気がしてモヤっとした。


最後に、共感性をもった想像力で他者の空白を埋めるコミュニケーションを心がけようと思え、今までよりも少し優しくなれる様な気にさせてくれる良い映画でした。
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