あんじょーら

空白のあんじょーらのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
3.0
吉田恵輔監督の最新作、ついこの間観た「ブルー」も今年の映画でした。


添田(古田新太)は漁師で非常に荒っぽい男、昭和な男性です。娘は中学生で、母(田畑智子)は既に添田とは離婚、再婚して妊娠中です。中学校でも浮いている娘は担任にも自主性が無い事を指摘されているのですが・・・というのが冒頭です。


非常に込み入った話しですし、大変暗い、救いが無い話しとも言えます。娘を持つ父が観るとかなり動揺しそうな映画です。ですが、極めて特殊な状況、特殊な脚本なんですけれど、だからこその現代の日本を描いていて、それこそマスコミの報道、いや報道じゃなくワイドショー、の現実を見せてくれたりします。


事の発端は父との関係性、もっと言うと大変高圧的な父に関係性が結べない娘が万引き未遂(?)を起こして補導、その補導から逃れ店外へ走り出し、店長(松坂桃李)が娘を追いかけ、その逃走中に車に轢かれ、反動で反対車線にまで飛ばされた娘をさらにトラックが轢いてしまうという痛ましい事件が起こります。


当然、万引き未遂ではあり、店長の対処の仕方にも問題があるのですが、もちろん飛び出した娘にも問題があります。そして、ここから本当にどんどんと物事が複雑にこんがらかっていきます。


今まで吉田恵輔監督は、ここまでシリアスな事象を扱ってこなかったと思いますし、ふとした笑いさえ封印したと思いますし、全く別な監督の作品に感じられるくらい、変わっています。凄いチャレンジですし、そのレベルが非常に高いと思います。


恐らく、主人公は2人、添田という古田新太さん演じる非常に父権的価値に身を置き、その事を自覚もし、そして漁師という仕事には真摯に取り組んできた、家族とどう接して良いのか分からない初老の男と、何となく家業を引き継ぎスーパーを運営する何かの取り柄があるわけではない地方スーパーの店主であるアオヤギを演じる松坂桃李さんです。


この2名に対して周囲の人間まで描き切っているのが今作です。ただし、大変重い映画だと思いますし、まさに現代を描いているんですけれど、この映画の英語タイトルが「intolerance」ちょっと引くぐらいの英語タイトルです・・・不寛容・・・確かにこれは空白というタイトルよりも、不寛容、というタイトルに今からでも変えた方が良いのではないか?と思ってしまいます。


とにかく、古田新太さんも、そして松坂桃李さんも、かなり限界に近い表現をしていて、役者さんって本当に凄いな、と思いますし、その演技を引き出さざるを得ない脚本が凄い。


これを商業映画として成り立たせる吉田監督は確実に1段上の監督になっていると思いますし、それでもここまで描けてはいるのですが、同じ不寛容について理知的に戦い、商業映画ではない戦い方を選んで、しかもスクリーンに載せた春本監督の「由宇子の天秤」は本当に凄い作品だと感じました。


「由宇子の天秤」を観ている方にオススメ致します。