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空白のRENのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.3
●吉田恵輔監督の最高傑作では!
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『ヒメアノ~ル』や『さんかく』の吉田恵輔監督のオリジナル脚本作品です。個人的には日本を代表する映画監督の一人に推したいくらいの監督。本当にどの作品も傑作なんですが、ここにきて現時点での彼の最高傑作がきちゃった、という印象。
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●鮮やかかつ巧妙な作劇
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まず本作の導入としては、万引きをして逃走した女子中学生が車に撥ねられて死亡してしまうんですね。彼女を追いかけていたのが松坂桃李演じるスーパーの店長。亡くなった女子中学生の父親は当然のことながら怒り狂い、何度もスーパーを訪れて店長の罪を追求します。
断っておくと、本作は凄まじくヘビーな内容かつ容赦のない展開が続く為、非常に胃が重たくなる映画でした。ですが、そこはさすがの吉田恵輔監督、単にヘビーなだけではなく巧妙な作劇をもって、本作を濃密な人間ドラマにまで昇華させています。
特に素晴らしいのは冒頭の事故に至るまでの描写。ここは情報の出し方が非常に絶妙で、女子中学生と店長の間でどんなやり取りがあったのかが明示されていないんですね。もしかしたら不適切な取り調べがあって女子中学生は逃走したんじゃないか、そもそも本当に万引きは行われたのか、という疑念が残るような見せ方になっているわけです。ここに関しては物語が進むに従ってヒントが提示されていきますが、そのピースの不穏さも実にお上手。本作はミステリーに類されるべき映画ではありませんが、劇中ずっと観客の関心を引き続ける作劇は鮮やかでした。
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●受け入れ難い出来事への折り合いの付け方
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古田新太演じる父親は、とにかく娘の死に対して折り合いが付けられない。娘は万引きなんかしてない、お前がなんか変なことやったんだろ、と松坂桃李を断罪する。第三者として彼の行動を俯瞰していると、さも常軌を逸しているような感覚をさえ覚えてしまいますが、実は自分の人生にも折り合いを付けられないままでいる物事は多いよなと。忘れたフリをしてるだけで実は許せないままでいること、謝らないといけないのにそのままにしていること、諦めたつもりだけど本当は好きで仕方ないこと、まあ思い当たることはたくさんあるな、と思います。
本作はそうやって折り合いを付けられずにいる人たちを否定も肯定もせず、愛情を持って描いた作品だと思ってます。ラストの奇跡は捉え方によっては悲劇でもありますが、とにかく自分の周りにいる大好きな人たちを大事にしようと思いました。
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●映画史に残る謝罪シーン
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本作で1番印象的なシーンは、ある人物の母親が古田新太に哀しくも美しい謝罪を行うシーンです。これは異論ないのではないでしょうか。母親としての、そして人間としての尊厳が凝縮された忘れがたいシーンでございました。
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