MURANO

空白のMURANOのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.1
誰もが加害者であり、誰もが被害者でもある。その人間模様を役者陣の熱演で深めた群像劇。不幸の連鎖による緊迫感に、目が離せませんでした。

女子学生の万引きから物語が始まることは事前にあらすじとして頭に入れてたのだが、それにしても冒頭が相当ショッキングで、、、。

そんな風に初っ端から観ている方に冷静さを失わせるシーンをぶち込こまれた結果、そのあとの展開には釘付けに。

古田新太演じる主人公の漁師、本来なら同情されるべき立場のはずなんです。

ところが、まったく感情移入させる余地がない描写が続き、それをさらに助長するような古田新太の嫌なヤツ演技も凄くて、「マジでこいつクソだ…」って気持ちが晴れなくなります。

この、主人公を全然可哀想に思えないという点。

これによって、他の登場人物も含め、それぞれの人物が抱える二面性を意識して見ることになり、映画全体が深まったように感じました。

万引き犯を追ったスーパー店長を演じ、感情を押し殺した演技を見せていた松坂桃李が、何が正しいのか、正しくないのか、という物差しに悩み、ただただ苦しいと吐露する。

全員が同じことを正しいと思っている状況なんて、この世にはないんですよね…。

そういった人生の難しさと、それゆえの辛さを、さまざまなエピソードを通して高め切った映画でした。

でも、辛さを極めた映画ではありつつも、100%の善がないように、100%の悪もないという視点も加えている。

決して嫌な気持ちだけが残ったという映画にはなっていなく、その点に巧さも感じ、完成度が高い作品だと思いました。


ただ、良い映画だったことを前提にちょっと欲を言わせてほしいところもあって、事故二発目のトラック運転手の描写、もっと物語に絡ませて3時間くらいの群像劇にしたら、さらに深まったんじゃないですかね?

事故一発目の加害者の視点が大きく話に絡み、それゆえに片岡礼子による重要シーンもあったわけで、さすがにトラック運転手の方のその後に何もないとは思えなくて。

本編107分でシュッとまとまった作品だったけど、『ドライブ・マイ・カー』みたいなロングVerにしてたらどう変わっただろう、というのが少し気になったところもありました(^^;
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