フォンディ

空白のフォンディのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.4
クドい演技と、あからさまな演出に萎えつつも(そこはあえての選択だと思うが)、ややこしいシチュエーションの連続によって頭がフル回転する面白さがあった。すべての人たちがなぜそんな行動や言動をするのか、動機に基づいて見て行くと、どれも嘘ではないが決定的に本当ではない気持ち悪さがある。そこで気づくのは、人間の行動というのは論理や倫理を優先しているかのように偽装した、ただの偏見と思い込みに過ぎないということ。
しかしこの映画の素晴らしさはその構造の暴露にはなく、後半の畳み掛けるような魂の吐露にあるだろう。演技も演出もキレっキレ。松坂桃李が弁当を投げるあたりからずっと涙が乾くヒマもない。まさにタイトルの『空白』に、何とかして折り合いを付けていく人々の姿である。最後に主人公が流す涙は、それまでのものとは違い、初めて亡くした娘が自分と一緒に生きていると気づいた幸せの涙なのだと分かり、俺は、俺はもう、ううっ…。