このレビューはネタバレを含みます
伝統や伝承という言葉が好きな私たちは、この映画を観てつい「アイヌ文化が…」「伝承の難しさが、」と語ってしまいたくなる。
でも、日本語を「勉強した」と客の望むよう言ったエミや、記者にイオマンテを隠したデボ、チビを殺した事を許せず、悔しくて雪を投げつけながらも父と抱き合ったカント、それぞれの葛藤ややるせなさを目にしたときに強く感じたのは、文化としてではなく「存在としてのアイヌ」の痛み。
アイヌ語も喋らず、刺繍もせず、狩猟もしないけれど「アイヌである」という人たちが生きている、この社会に。
その事をカントの眼差しが問うているように思えてならない。