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アイヌモシリのyumiasaのレビュー・感想・評価

アイヌモシリ(2020年製作の映画)
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カント、とはアイヌの言葉で天のこと。いつか阿寒湖で見た空は淡く、それでいてどこまでも強く澄んだ青で、それがまさにこの主人公カント君の存在感そのものだった。秋の空の下でバンド仲間たちに歌詞を見せるシーン。あのカットがなによりも美しくてやさしくて好きだった。
親や地域特有の価値観から離れたいというごく普遍的な少年の望み。一方で、アイヌという生き方を未だに模索している大人たち。大人は大人なりにいろいろ考えてはいるけど、子供からするとけっこう雑だったりする。人によって言うこともばらばらだったり。なんなんだよ。そんな中学生くらいの気分をリアルに感じられた。
アイヌ「民族」というと大きなもの、自分たちとまったく違うものに感じるけれど、実際は家が農家とか漁師とか"家族全員東大"とか、その人の価値観と生活をつくるアイデンティティのひとつにすぎないのかもしれない。強いて言えば、他人のそれと距離感が少し離れているだけ。だからこそ誰もが感情移入できるし、カントがイオマンテに感じた違和感や裏切られた悲しみは、私たちも「大人の世界の常識」に対して感じたことのある感情なのかもしれないと思った。忘れてるだけで。
アイヌの考え方に触れながらも、アイヌに終始しないところがよかった。
1時間半の映画にしてはとても濃密で残してくれるものの多い一本です。
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