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ミッドサマー ディレクターズカット版のnatsuoのレビュー・感想・評価

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「華やかで明るいカルト」

公開当時話題になっていたり、A24がアツいといったことも耳にしていたので気にはなっていた。でもホラーは…グロは…。下手なラブコメの次に苦手です…。とはいえ勉強にもなるので観ないとなとも思いつつ。本ディレクターズカット版のネトフリでの配信が終わってしまうのもあったので、いざ鑑賞。どうせならディレクターズカット版がいいじゃん。


いやぁ怖い。観ていられない。でもなぜか楽しい。面白い。不思議な感覚だった。言うほどホラーでもないし、そこまでグロが多用されるわけでもない(とはいえ一つ一つはグロ過ぎるが)。ジャンプスケアやネガティブスペースといったホラーの典型要素も少ない。ストーリーもキャラクターの性格も含め、全編通して常に緊張感が走っているわけではないからこそ、こっちは常に緊張してしまう。ホラー慣れしていないので、ホラー好きな人の意見はわからないが、この演出、構成は見事だと思う。自分の精神は徐々に擦り減っていく、しかしそれとは逆に楽しんで観てしまうのが本作。

舞台はスウェーデン。雄大な自然と山々、澄んだ青空が映えるある村に、純アメリカンな大学生集団がお邪魔する。そう、文字通りお邪魔である。特に顕著なのは、ウィル・ポールター演じるマーク。分別がつかない人である。しかし一概に酷いとは言えない。実際こういう人もいるだろうし、なにより村の寛大さが、自分のマークへの苛立ちを抑えている気がする。異常なまでに村が寛大過ぎる。流石に神木を穢したりするのはNGだが、昼餐で勝手に話しててもタバコを吸ってても怒られない。大切だが部外者には斬新過ぎる(この表現で正しいのかは分からない)儀式で騒いでも咎められない。それが恐ろしい。日本人的思想なのかもしれないが、明らかにルール違反、マナー違反であるのに。むしろ文化を教えたりもてなしてくれたり、本当に怖くなってくる。恐らく主人公のダニー(フローレンス・ピュー)はその恐ろしさを始めから感じていたのだろう。でもその裏が暴けない。我々も最後まで暴けない。むしろ暴く余裕がない。しかし最後には衝撃だが納得の結末。ああしてやられたな、と。
何より魅力で売りにしているのがその画。まさにインスタ映え間違いなしのスポットと華やかさ。華と白夜。白夜が一層恐ろしい。狂った(そう思うのはとても主観的で我儘だが)世界観に狂った様に美しい画。どう考えたらホラーで暗夜が出てこない作品が創れるのだろうか。ワンシーン、確実に陽が落ちている夜が出てくる。それは言ってしまえば夢なのだが、その暗い夢と(物理的に)明るい現実の対比が酷く恐ろしい。花も印象的。食材を彩る花。恋人に渡す花。着飾った花。人に添えられた花。美しいだけではない花の大きな意味にギョッとしてしまう。薔薇や彼岸花など出さなくとも華やかな花だけで美しさと恐怖を表してしまう画作りには脱帽。

そして巧みなのが人物設定。主役やその彼氏ももちろん良いのだが、ペレが良い。演者はヴィルヘルム・ブロングレン。初めて聞く人だが、恐らく映画初出演。彼の演技も良いが、その設定。優しいし友達とも仲良く、相談相手に1人欲しいような人材。そんな彼は当の村出身者。でも考え方や話し方はアメリカ寄りなのでこっちとしても親近感が湧く。我々はもちろん主人公グループ、つまりお邪魔サイドに感情移入するので、彼らと仲の良い、いや彼らの1人であるペレにはとても好印象。村との交流の橋渡し役でもあるわけで。個人的にとても好きな人物で、途中までダニーと???などと腑抜けた考えをしていたわけだが、いやしかし...といったところ。はぁやられたなー。
そしてフローレンス・ピュー。やはり素晴らしいなぁ。ブラックウィドウで初めて知った人だが、それもストーリーオブマイライフもとても良かった。今作も決めてきてくれた。哀愁漂う泣き顔に少々怖い笑顔。初めての体験の連続に戸惑いつつ、しかしそこに順応して最後は...というとてもいい設定。成長、とは違うのかもしれないが、論文の為の見聞きなんかより遥かに大きなものが得られているのだと思う。それを確実に演じてくるあたり、凄い。


カルトは怖いし関わりたくないものだが、ここのまで来ると異文化過ぎて興味が湧くものだ。論文にするだの云々があったが、その興味関心も村側の意図したものなのだろうか。多様性が謳われる時代、一概に否定できないこの死生観と信仰心は、むしろ多数派である部外者を狂わせるのだろう。
ミッドサマー、決して好きではない。好きとは言えない。だが面白いし楽しい映画だった。ホラーに手を出し始めるいい機会なのだろうか。...やっぱり今はいいかな。

[字幕]
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