EnzoUkai

街の灯のEnzoUkaiのレビュー・感想・評価

街の灯(1931年製作の映画)
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恐らく福岡市内唯一残った映画的アイコン、福岡中洲大洋映画劇場。
サヨナラ興行でチャップリンを三本掛けてる。
『街の灯』『黄金狂時代』そして、『独裁者』。
今までも映画館の閉館には立ち会ってきた。どの別れもなかなか堪える。それぞれの場所にそれぞれの思い出があるから、そうした思い出が次から次に蘇ってきて映画どころじゃないってところだ。
もちろん、今回も『街の灯』の中身になかなか集中できず、ついつい天井や壁なんかに目が行く。または、席を埋め尽くした観客の頭を見たりして、感慨ばかりが溢れる。
それでも、この映画史に輝く珠玉の名作はそんな私を放っておいてはくれない。目の前のチャップリンの動きや表情。素晴らしい劇番。程なく切ないお話に吸い込まれていった。

このお話を見るたびに、資本主義社会の矛盾を感じる。
貴族社会から民主主義を経て、資本主義社会へと移行してるにも関わらず、厳然として階級は存在し、建前ではあらゆる人にチャンスがあると喧伝される資本主義社会でも、非常に硬直的なのである。
無論、チャップリンの慧眼はそこを見事に射抜くことにより、名もなき世界中の人々が感動してるわけだ。
特に、あの花売りの少女は、チャップリンの用立てたあの金銭により劇的に生活が変わる。そう、最初の資本さえあれば豊かさを得られるという資本主義の摂理を土台にしてはいるが、その資本をそもそも得ること自体が難しいという矛盾を喝破してる。

今まで、満席の映画館ってどれだけ経験しただろう。
子供の時の東宝チャンピオン祭りはいつも満杯だった。
『ジョーズ』も『キングコング』も満杯。
『ロッキー』も立って見たな。
『ET』、『ターミネーター2』も立って見た。
シネコン時代になっての満杯って『千と千尋』くらいかな。この時は異常だった。シネコンのスクリーンを埋め尽くしてるのにどの回も満杯。
でも、それからは満杯ってあったろうか?
あ、『この世界の片隅に』があった。
それと、ちょっとしたイベント上映では丸椅子で見たりもしたか。
今回もいわゆるイベント上映。
令和の時代、満席の映画館で見るチャップリン。
しかも無声映画。
漏れ聞こえる笑い声で心が温かくなった。
何か、久しぶりにたくさんの人達と同じ空間を共有するって体験をした気がする。
もうだいぶ前に忘れてしまったような感覚。
お別れを言うよりも前に、こういう経験をさせて貰った中洲大洋に感謝したい。
最後にまたこんな貴重な経験ができるなんて、本当に映画って素晴らしいもんだ。
EnzoUkai

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