SatoshiFujiwara

ファイブ・イージー・ピーセスのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

4.0
好きですこれ。テーマは(テーマなんて教条主義的な言い方はいやだが)理想と現実の間で分裂した自我ということになろうか。ボビー(ジャック・ニコルソン)とレイ(カレン・ブラック)は一応恋人同士であるが、最初のタイトルに流れる歌(タミー・ウィネットの『あなたについて行くわ』)の歌詞が既に暗示していたように女はあくまで男に尽くす側でその主体性はなく、本作ではボビーの煮えきらなく自己中心的な態度に常に翻弄される存在である。ゆえに、レイはボビーによって規定されるしかない。ちなみにこの歌を好んで聴きまた歌うレイに苛つくのがボビーである。「鬱陶しいんだよ」といったところか。

他方、ボビーは元々ハイソサエティの出であってピアニストを目指しながらもそこから道を踏み外し、今はまるで不釣り合いな石油採掘場で肉体労働に従事している。この分裂がボビーの複雑で鬱屈した態度に表れていよう。

レイはボビーに愛されたがっているがボビーの態度に一喜一憂し翻弄され、ボビーもまた自己の気質にはよるにせよあったはずの人生と現在の人生の間で常に引き裂かれている。

この基本ラインに採掘場の笑い方が変な同僚やらボーリング場で遭遇する妙な女2人組、はたまた実家への旅路の途中で拾ったこれまた特異な女2人らのエピソードが挿入されてなんか味わい深い。で最後、最初は上着を着てトイレに入ったボビーが出てきた際には来ていないショットを見て何かあるよなと思ったらあれ、なんかそれ的な予感はあったが。音楽も何もないあのラストは良かった。これもまたアメリカン・ニューシネマなのか知らんけど、感傷的でもなく突き放した感じがよい。

あと、渋滞の高速で苛つき車から降りて他のトラックの荷台に載っていたピアノをおもむろに弾き始めて(ショパンの幻想曲ってのがまたいいわ)横道に逸れちまうとこやら、ボビーの姉のピアニストがスタジオでレコーディングしているシーンも好きです。どうしても弾きながら歌ってしまってエンジニアからたしなめられるんだが、あれはグレン・グールドですよね明らかに。エンジニア同士が揶揄するようなことを言っているが似たシーンはグールドのドキュメンタリーでありましたね。
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